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一年経って

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 一年前の今日、私は寝台特急「はやぶさ」のB寝台個室ソロに乗って、熊本へ向かっていた。前夜に東京を発ち、長い長い旅路を重ね、いよいよ終着熊本に着こうかというとき、私は昼前の穏やかな日差しに照らされた秋草を車窓に眺めながら、その旅路に何を想えば良いかわからなくなっていた。そして、ただただ、終着駅への到着を、静かに受け入れるしかなかった。それが私にとって、東京から発つ九州行き寝台特急の最後の乗車になってしまった。

 それからちょうど一年が経った。そして、併結する寝台特急「富士」とともに、寝台特急「はやぶさ」が廃止になって早くも七ヵ月が過ぎている。列車が存命のときは、いま「はやぶさ」はどの辺りだろう、いま「富士」はどこまで行っただろうなどと想いを巡らせたものであったが、最近ではそういうことも想わなくなってしまった。また、夕方の18時03分に、列車が東京駅を発つさまを想いながら、空を見上げることもなくなってしまった。

 それでも私は、寝台特急「はやぶさ」を「富士」を、今でも想い続けている。そして一年前の「はやぶさ」の旅路も、今鮮やかに脳裏によみがえる。

 東京駅を闇夜に向かって旅立つときの切ない歓びが、心に刻まれている。横浜辺りでつまんだシウマイと発泡酒の味が思い出される。暗闇の中、根府川の橋梁を渡る音が耳に残っている。富士川を渡るときの、大井川を渡るときの、漆黒の闇の怖さが、思い起こされる。土のように硬そうな黒い浜名湖の湖面を憶えている。雨にけぶる名古屋駅のセントラルタワーズを見上げたことが思い出される。関ヶ原の闇に向かって、機関車が発したもの悲しげな汽笛が今も心に響く。闇の近江路を駆け抜け、黒々とした鴨川を渡って京都駅に着いたとき、やれやれと思ったことが記憶に残っている。

 良く眠れぬままに一夜を明かした後、個室車両の廊下から、朝の白い瀬戸内海を眺めたのは、翌朝最初の思い出である。山口県に入って、雨上がりのしっとりした田園地帯をゆるゆると走るさまが思い起こされる。下関駅で機関車の付け替えを見るためホームへ降りたときに受けた潮風を、今も感じる。門司駅で、白い「はやぶさ」のマークを誇らしげに付けた紅い機関車ED76が近付いてきたときの緊張感は忘れがたい。九州に入り、穏やかな朝日に照らされながら、コスモスの花や柿の実を眺めたことが思い出される。そして大都市博多を抜け、のどかな景色が続くうち、気持ち良くうたた寝したのも、良い思い出である。

 そうした一年前の「はやぶさ」の旅路が、今も心に深く深く刻まれている。それが私にとって何より憧れの旅路であったからである。そして、決して色褪せることのない旅路である。



 今年三月の寝台特急「富士」「はやぶさ」の廃止後、使用されていた機関車や客車は、リバイバル列車として九州内の各線を駆け巡っているという。東京にいる身としては、限られた日程で走るそれらの列車に会いに行くことは、なかなかできるものではないが、今でも青き列車が動いていてくれることは嬉しいことだ。末永く九州寝台特急の車両が活躍してくれることを、心から祈りたい。そして、九州寝台特急の伝統を、伝えて欲しいと思う。


寝台特急「はやぶさ」 鹿児島本線熊本駅にて 2008.10.24



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by railwaylife | 2009-10-24 22:50 | 寝台特急 | Comments(0)

さらば京王3000系

 今朝はいつもより一時間半遅く、11時に出社する予定であった。というのも、本日10時に発売になる一ヵ月後の新幹線の指定券をみどりの窓口へ買いに行くことにしていたからである。来月の三連休の旅に備えてのことだ。三連休初日の下り列車の切符だから、どうしても発売直後に取っておきたかった。勤務先には、昨日のうちに私用で遅れると言っておいた。

 切符の発売は10時からなので、朝は余裕があった。久々に平日の朝寝坊を楽しんでも良かったが、それではもったいないような気もした。それでいつも通りに起きて、平日の朝にしか見られないものを見に行くことにした。

 平日の朝にしか見られないものとは、京王井の頭線の3000系である。老朽化で淘汰の進みつつあるこの車両は、すでに朝のラッシュ時しか動いていない。もはや風前の灯であるが、思い入れのある車両だけに、消滅してしまう前にいま一度見ておきたかった。

 そこでラッシュの東急東横線に飛び乗り、渋谷へと向かった。そして急いで井の頭線に乗り換えた。

 どこで3000系を見送ろうかと考えたが、10時に渋谷駅のみどりの窓口へ行く予定だったので、渋谷からなるべく近いところが良いと思った。それで、渋谷から三つ目の池ノ上で降りた。

 目指す場所は、池ノ上から下北沢に向かって三つ目の踏切である。ちょうどそこへ着くと、目の前を3000系の渋谷行きが通り過ぎてしまった。しかし、慌てることはない。3000系は何編成か動いているはずである。

 さて、この踏切から下北沢方面を見ると、線路がまっすぐに伸びていて、その先に下北沢の駅が見える。踏切に着いた時刻は8時40分で、まだラッシュの時間帯であった。上りは、ちょうど目の前の踏切を電車が通過すると、次の電車がもう下北沢の駅に着いているというくらいの運転間隔であり、見ていて飽きることはなかった。

 しかし、下北沢に次々と現れる電車は、いずれも二つ目の離れた新型の1000系ばかりで、ブタ鼻のような前照灯を持った3000系はなかなか来なかった。
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 そのうちに、さっき渋谷へ向かった3000系が、折り返し下り電車となって戻って来た。だが、この場所では下りは後追いしかできない。やはり私は、上り電車の3000系を正面からカッコ良く撮っておきたかった。
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 去って行く3000系の行き先表示を見ると、富士見ヶ丘行きとなっていた。そのまま車庫に入庫してしまうのだろう。もうここへは戻って来ないかもしれない。でも、まだ別の編成が走っているはずである。そう思って根気強く待つ。ただ、この時間帯から、私がカメラを構えた位置で上下の電車が離合するようになってしまった。これでは上り電車に下りが被ってしまうかもしれない。

 そう思ってヒヤヒヤしていると、間もなく下北沢の駅に、ブタ鼻の前照灯が見えてきた。ついに3000系がやって来た。

 下り電車を気にしつつ、カメラを構えて3000系を待つ。グッと引き寄せて撮りたかったが、シャッターを押すのが少し早かった。
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 残念な結果に終わってしまった。それで私は、もう一編成3000系を待つことにした。時間にはまだ余裕があった。

 次々にやって来る1000系を飽きずに眺めているうち、さっきうまく撮り損ねた3000系が下り電車となってやって来た。今度は急行運用である。老体に鞭打って爆走する姿を見たかったが、ラッシュ時で前が詰まっているので、それは無理だった。急行3000系はノロノロと去って行った。
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 踏切に着いてから四十分が経ち、そろそろ電車も一巡したのではないかと諦めかけていたところ、三たび3000系がやって来た。下り電車は行ったばかりで、今度は被る心配がない。しっかりと準備して、その姿を捉えた。
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 シャッターを切りながら、さっきよりうまくいったような気がした。これで満足してこの踏切から離れられると思った。

 カメラから目を離すと、目の前を3000系がゆっくりと駆けて行くところであった。3000系を見るのは、もうこれが最後かもしれない。この車両が引退するまでに、こうやって平日の朝に井の頭線沿線に来ることはもうなさそうだからである。そう咄嗟に感じた私は、去り行く銀色の車体を、じっとじっと見つめていた。


京王1000系・3000系 京王井の頭線池ノ上駅~下北沢駅にて 2009.10.21



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by railwaylife | 2009-10-21 21:53 | 京王井の頭線 | Comments(0)

東横線渋谷~代官山地下化工事

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 東急東横線は、2012年度に渋谷駅から東京メトロ副都心線へ乗り入れることになっている。そのため現在、渋谷~代官山間の地下化工事が行われている。渋谷の地下駅で副都心線に直結することになるからである。

 工事中の渋谷~代官山間は、変化に富んだ区間である。トンネルから出てすぐのところにある代官山駅を発った電車は、右手に高い崖を見ながら、代官山の洒落た街並の中を進んで行く。やがて高架に出たかと思うと、JRの線路を跨ぐ。すでにここは、渋谷の谷底である。

 ここで東横線の車窓にJRの線路が見えるときは、胸がときめく。このJRの線路が日本中につながっているのだと思うと、ワクワクしてくるからである。そして特に、これからJRで旅に出かけようというときなどは、旅の目的地がこの線路の先にあるのだと思い、旅立ちを強く感じる瞬間でもある。

 JRを跨いだ東横線は、左へ左へとカーブしていく。線路はすでに渋谷の街中に入っている。だが、この辺りにはまだ、駅前のような華やかさはない。雑然と建物が並んでいて、渋谷の場末のようなところだ。だが、その雰囲気が私は好きだ。いよいよ終着渋谷に着くぞ、という気分が盛り上がってくるからである。

 やがて街並が賑やかになってくると、終点の渋谷駅である。電車はゆっくりゆっくりと、駅に吸い込まれていく。東横線が最も乗り慣れている路線である私にとっては、この渋谷駅に着くときの感覚が、終着駅の雰囲気の代名詞であると言える。

 そんな独特の風景のある区間が、地下化によって失われてしまう。これはかなり寂しいことである。地下化まではあと三年あるが、今のうちからこの景色をしっかりと脳裏に焼き付けておきたいと思う。

 ところで、この区間がどのように地下化されるのかは、非常に興味深いところである。特に現在、JRとの交差地点から渋谷駅にかけては高架であり、地上とも高低差がかなりあるのに、それが地下に潜るとなれば、代官山から地下区間への高低差は相当なものになるだろう。そうすると、線路はどの辺りから地下に入るようになるのであろうか。

 また現在、東横線とJRとの交差地点では、互いの線路がほぼ直角に交わっているのに、渋谷駅付近では両者はほぼ平行している。そのために、東横線の線路はかなりカーブしているということである。線路が地下化されても、今と同様のカーブが必要となるだろう。その曲がり具合も非常に気になるところである。そして、地下の渋谷駅は明治通りの直下にあるが、線路がどの辺りで明治通りの下に潜り込むのかという点も注目に値するだろう。

 いずれにしても、毎日のように利用する区間だけに、興味は尽きない。だからこれから、工事の進捗状況を注意深く見守っていきたいと思う。



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by railwaylife | 2009-10-18 14:24 | 東急 | Comments(0)