カテゴリ:300系( 51 )

泣いても笑っても

 私はどこか、自分の意志を無理に抑え込んでしまうところがある。

 本当はこうしたい、でもこういうことがあるから、と理由を付けては、意のままに、想いのままにしない。



 本当は、300系も最後の最後まで見届けたかったのだと思う。

 でも、その強い意志を無理矢理断ち切るがごとく、最後の日の一ヵ月も前に「惜別300系のおわり」という記事を載せ、300系という車両の見送りを終わりにしてしまった。

 だが、そんな宣言をしてみたところで、自分の強い意志を完全に抑え込むことはできなかった。だから、意のままに、想いのままに「忘れ物をとりにゆく」ため相模へと出かけ、憧れの風景の中で300系を見送った。

 そして、時間のできた今日も、近所にその姿を見に出かけた。

 ただ、その今日がほんとの「惜別300系のおわり」であった。定期運用は明日まで、そしてあとはダイヤ改正前日の一本のみである。そのどちらも見に行く予定はない。だから、泣いても笑っても今日がほんとに最後だという想いがあった。

 そのほんとの最後に選んだのは、この車両を一番多く眺めた場所、多摩川橋梁であった。

 無論、人に誇れるほどの回数を重ねたわけではない。でも、その場所に、その橋梁に、その川面に、その風景に、私の想いを、強く、強く、強く込めて来た。



 その想いを、最後に込めるときであった。

 上ってくる列車は、水鳥も見守る中、川面を渡るさまと決めた。
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 下ってゆく列車は、後姿と決めていた。
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 いい撮影場所でないことはわかっていた。現に、上ってくる列車が来るときには何人も撮影者がいたのに、下ってゆく列車が行くときに、その場所で300系を見送っていたのは私一人であった。

 でも、撮影場所としていいかどうかは私には問題ではなかった。この場所が、私にとって最も想いを込められる場所であった。

 川を渡り、東京から300系が旅立ってゆく。それは、単に西へ向かうというのではなく、現実の世界から歴史の世界へと旅立ってゆくようでもあった。

 対岸の建て込んだ風景の中に、300系の姿は消えた。



 これで最後だ。

 カメラを手に、しばし呆然と土手の上に立ち尽くしていた。


新幹線300系電車
1枚目 「こだま」650号 東海道新幹線品川駅~新横浜駅にて 2012.3.10
2
枚目 「ひかり」477号 東海道新幹線品川駅~新横浜駅にて 2012.3.10
by railwaylife | 2012-03-10 23:50 | 300系 | Comments(2)

忘れ物をとりにゆく

 忘れ物があった。





 いや、正確に言うとそれは、忘れ物ではない。ずっとずっと覚えていたものだ。忘れようとしても忘れられないものであった。でも、もう忘れたことにしようと思っていた。そして、例えば来月の20日過ぎくらいに思い出したことにして「あ、忘れてた」とか言うつもりであった。

 なぜならそのことは「本当は行きたいけどもう行けないもの」だと思っていたからである。そういうふうに自分に思い込ませていたからである。

 だが、考えてみれば、行くことがそんなに難しいものでもなく、自分で「行きたい、行ってやる」と強く念ずれば行けるものであった。





 だから、行ってきた。



 忘れ物を、とりにいった。



 忘れ物を、撮りに行った。





 何を忘れたかと言えばそれは、昨年7月に載せられている「石橋300系」という記事に話がさかのぼる。

 この「石橋300系」は、東海道新幹線小田原-熱海間にある玉川の谷で300系を捉えたときの想いを綴ったものであった。

 玉川の谷というのは石橋の名で知られる場所で、併走する東海道本線とともに、新幹線越しに相模の海が望めるところでもある。

 そこで、青い海原を背景に300系を見送りたいという想いがずっとあった。

 だが、この「石橋300系」のときは、梅雨時ということもあって天気が悪く、海は色を失っていた。そこで海の背景は諦め、山を背景のメインにして300系を捉えた。

 それはそれで、この相模の海沿いを往く風景らしいものだとは思ったが、本当は青い海を背景にした300系の風景を見たかったという想いが残っていた。そういう想いが、強く、強く残っていた。

 でも、なかなかそれを見に行く機会もなく、いよいよ300系が相模の海沿いを走るのもあとわずかの間となってしまった。

 だからもう、石橋へ300系を見に行くのは無理だなと思った。そう自分に思わせていた。本当は「行きたい!」という気持ちを抑え込んでである。

 そしてその想いを断ち切るためにも「惜別300系のおわり」という記事まで載せて、300系を見送ることさえ締めてしまったわけであるが、それでも心残りはあった。

 だったら、その心残りを打ち消せばいい。想いのままに、意のままに、その場所へ行けばいい。石橋は、何も地の果てにあるわけではない。行こうと思えばすぐに行けるところである。





 そういう自分の本当の気持ちに従い、私は小田原へと出かけた。

 ただ、現地へ行ってみると、いろいろとあって石橋へ行くのはやめた。別に石橋にこだわることはなかった。大事なことは、相模の青い海を背景にして300系を見送ることであった。そしてその風景を、独りでひっそりと、ひっそりと見送りたかった。

 その気持ちのままに、山道をずっと上った。ただ300系を見送るために、山道をずっと上った。

 そして、青い海を遠くに見ながら、300系を眺めた。

 折しもこの日は「ありがとう300系」マークの付いた臨時「のぞみ」も運転されていたので、計四本の300系を見送ることができた。

 ただ、遠目なので、マークが付いているのかいないのかもよくわからなかった。
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 でも、私にとって何より大事なのは、相模の海沿いに往く300系という風景を見送ることであった。憧れて止まない相模の海沿いの風景に、この300系という車両も在った。そのことを、しかと、しかと目に焼き付けておきたかった。それだけであった。
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 そして私は、柔らかな早春の海風に吹かれながら、本当の300系の見納めの瞬間に、強く、強く、切なく、想いを籠めた。
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 その最後に、車体に書かれているであろう文字を心の中で読み上げた。



 「ありがとう、300系」




新幹線300系電車
1枚目 「のぞみ」343号 東海道新幹線小田原駅~熱海駅にて 2012.2.24
2
枚目 「こだま」650号 東海道新幹線小田原駅~熱海駅にて 2012.2.24
3
枚目 「ひかり」477号 東海道新幹線小田原駅~熱海駅にて 2012.2.24
4
枚目 「のぞみ」371号 東海道新幹線小田原駅~熱海駅にて 2012.2.24
by railwaylife | 2012-02-26 11:35 | 300系 | Comments(2)

惜別300系のおわり

 明日からJR東海所属編成の新幹線300系には「ありがとう300系」のヘッドマークやステッカーが貼られ運転されるという。また、この後10時からは、引退の日に運転される予定の「『ありがとう300系』のぞみ」号の指定券が発売にもなる。

 私はどうも「ありがとう」とか「さようなら」とかいうヘッドマークにあまり興味が持てず、また人ごみも苦手なので、それらを見に行こうという気はない。マークも何もなしに、ふつうに走っている300系が、私にとっては何より大事であった。

 というわけで、一昨年の夏から続けてきた「惜別300系」はもうおしまいにしたい。これ以降、私が本線上で300系を目にすることはないと思う。従って、今日以降に300系を眺めたという記事がこのブログに載ることもないと思う。

 もちろん、JR西日本所属編成の300系が定期運用でまだ一往復残っているので、それをまだ追いかけようかと悩む気持ちはあった。最後の最後まで、この300系を見届けようかと思う気持ちもあった。

 だが、その定期運用をこれから見に行ける機会があるかどうかはわからない。それに私は今月の初め、ある場所で何とも印象的な300系との出会いをしたことがあった。その場面が、私にとっての300系の見納めにふさわしい気がした。それ以上の見納めはないと思った。だからもういいのだと考えている。

 ただ、以前の旅で300系を眺めたときのことがまだ掲載できていないので、いつかその旅の旅日記がここへ載ることがあったとしたなら、300系の姿がまたひっそりと現れたりするかもしれない。また、名古屋にある「リニア・鉄道館」には300系が保存されているので、いつかそこへ行って300系を眺め、その想いをここへ綴る日が来るかもしれない。



 そんな期待も込めつつ、最後に、私が一番気に入っている300系の風景を載せておきたい。

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by railwaylife | 2012-02-16 08:00 | 300系 | Comments(4)

都会の300系

 できるだけ多くの場所で300系を見送りたい。

 以前から想っていたこの言葉の「多くの場所」には、東海道新幹線の全区間はもとより、山陽新幹線までも入っていたと思う。

 だが実際には、これまでそんなにあちこちでこの300系という車両を眺めることはできなかった。結局、自分にとって身近な都内の東海道新幹線沿線が中心になってしまった。

 でも、その方が却って良かったかなといまは思う。身近な場所の風景の中にある300系を眺め、捉え、想い、それを綴ることが、私なりの表現だったのではないかと思う。

 そしてそうやって、都内で300系をどう眺めようかと考えるうち、都内を通る東海道新幹線沿線のほとんどを歩くことにもなった。もちろん全部ではない。中には線路沿いに道のないところだってあるし、道のあるところでも歩いていないところもある。でも、肝心なのは全部歩いたか歩いていないかではなく、そうやって歩いているうちに実にさまざまな発見があったということである。300系や新幹線と関係のないことも含めてである。

 そういう発見も、300系を追いかけなければめぐり遭えないことであった。



 そんな、私の今までの文字通り「歩み」に、いま一つの風景を付け加えるべく、都内のある場所でまた、300系を待ち構え、そして見送った。
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 都会らしい風景の中に在る300系であった。


新幹線300系電車
「ひかり」512号 東海道新幹線品川駅~新横浜駅にて 
2012.1.28
by railwaylife | 2012-02-15 23:00 | 300系 | Comments(0)

シモシンメイ300系

 高校のとき、バスで遠足へ出かけ、帰り道に都内へ戻って来て首都高に入ったりすると、クラスの中に必ずこう言う人がいた。

 「オレ、この辺で降ろしてほしいんだよね!」

 高速の上でバスを降ろされたら大変なことになるが、その発言の裏には「オレんち、この辺なんだぜ!」というさりげないアピールがあったのだと思う。でも、家の近くを通っているのにわざわざ学校まで連れて行かれ、いつもの下校の通りに帰り道をたどらなければならないというのは、本人にしてみれば本当に面倒なことだっただろうと思う。



 私の場合、そんなふうに「この辺で降ろしてほしい」と思うことが、東海道新幹線に乗っているときにある。

 多摩川を渡って東京都内に入った東海道新幹線は、脇に品鶴線を従えながら、実に三つもの東急線の路線と交わる。多摩川の方から順に、多摩川線、池上線、大井町線である。

 もし、その三つの路線のどれかと交わるところで新幹線を降りることができたなら、東急線沿線に住む私としては、帰り道がぐっと楽になるのになと思う。

 そんなふうに「ここで降りられたら」と思うのは、面白いことに三つの路線とも新幹線との交点にちょうど駅がある所為でもある。多摩川線は沼部駅、池上線は御嶽山駅、そして大井町線は下神明駅である。

 だから私は、いっそのことそのどれかの駅に、新幹線の駅も作っちゃえばいいんだ、と思ったことさえあった。もちろん現実味のない話ではある。でも、3両編成分とか5両編成分しかない東急線の駅の脇に、16両編成分の長々としたホームが堂々とできあがったとしたら、それはそれで面白い風景かもしれないなと思ったりもする。山陽新幹線の新岩国駅や、九州新幹線の新鳥栖駅、新八代駅を彷彿とさせる風景にもなる。



 そんな妄想はさておき、ここで挙げた新幹線近くの三つの駅のうち、新幹線が一番よく見えるところといえば、大井町線の下神明駅であろう。

 品鶴線と山手貨物線大崎支線の合流点近くを跨ぐ大井町線の高架上にある下神明駅だが、新幹線はその下神明駅近くをさらに高い高架で跨いでいる。それでこの駅のホームからは、見上げるようにして新幹線が往くさまを眺めることができる。その風景は、大井町線に乗ったときの一つの楽しみであるとも言える。大井町行きの電車に乗り下神明到着直前の車窓に東海道新幹線の列車が見えたときなどには、ひそかに心躍るものがある。

 そんな下神明駅でも、新幹線300系を眺めてみたいとだいぶ前から考えるようになっていた。しかも、巧い具合に大井町線の電車と交差する瞬間をである。

 それで、300系の時刻表と大井町線の時刻表を突き合わせ、両者が巧く出会う時間はないものかと調べようかと思った。

 だが、新幹線はまだいいとしても、大井町線は通勤電車である。ちょっとしたことですぐに遅れたりする。たとえば、一つ前の戸越公園駅で誰かが改札から最後尾の車両めがけて駆け込み乗車をし、ドアの再開閉があったりしたら、それだけで300系との交差の瞬間はずれてしまう。

 そんなことを考えると、仮に「その瞬間」を見つけ一人ほくそ笑んだとしても、勇んで下神明駅に駆け付けたところで両者が巧く行き会うという保証はどこにもないと思った。また、下神明駅はホームの幅が狭いので、そう何度もチャレンジするというわけにもいかなかった。

 そうやってあれこれと思いを巡らし、ぐだぐだとしているうちに、300系がその下神明駅をかすめて行く機会もだいぶ少なくなってしまった。

 そこで、大井町線の電車と交差するとかしないとか関係なしに、ともかくも下神明駅を往く300系という風景を遺しておくことにした。それもまた、私にとって思い出の風景だからである。

 その想いを胸に、下神明駅のホームに身を置いてみた。1月も末のことである。



 下りホームで各駅停車溝の口行きが出て行くのを見送り、戸越公園寄りへと歩を進めた。ここからよく見える新幹線は下り列車で、品川駅発の時刻からだいたい2分程でその姿を現す。それに合わせて300系を待ち構えていたが、ようやく2分が経とうかという頃、新幹線の上り線にN700系が現れた。その長い編成が早く過ぎ去ってほしいと思ううち、今度は下の線路に大井町行きの8090系が勇ましく現れた。300系の出現に集中しようとしているのに、何かと気の散ることだ。

 そして、上りのN700系がようやく最後尾を見せ、大井町行きの8090系もホームに完全に停車して落ち着くかというそのとき、300系は品川方からのっそりと姿を現した。今しも目の前を、下神明駅を、300系が差し掛かってゆく。その瞬間を捉えようと思ったが、集中し切れておらず、外してしまった。やむなく、長々と走り去るその姿を見送り、後追いで捉えた。
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 残念に思う気持ちはあったが、確かに下神明駅で300系の姿を捉えることはできた。私の思い出を遺すことはできた。

 大井町行きも、300系も走り去ったその交点近くに取り残された私は、そう思っていた。


新幹線300系電車
「こだま」659号 東海道新幹線品川駅~新横浜駅にて 
2012.1.28
by railwaylife | 2012-02-15 21:00 | 300系 | Comments(0)

馬込の朝

 日の出時刻の10分前、東の空はさしたる色には染まっていなかった。

 いや、何か劇的な夜明けの色を期待しているからいけなかった。たとえほんのりとでも、空が朝焼けの色に染まっているだけでありがたいことであった。

 そしてそこへ、時刻通りに300系がやって来てくれるだけで、ありがたいことであった。
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 でも、私が馬込の駅から内川の谷を下って上って駆け付けたこの場所を、300系はあまりにも素っ気なく、あまりにも平然と通り過ぎてしまった。こうして私が朝に300系を見送るのはこの日で最後だという想いを込めていたのにである。

 いや、そうやって最後だとか言って劇的な風景に仕立て上げたがっているのは私の勝手である。だから、風景の方はあまりにもあたりまえに作り上げられていく。

 そんな風景を見送りながら私は、もう最初だとか最後だとか関係ないんだと思った。この寒い寒い朝、この寒い寒い場所で、300系を見送った。ただそのことが大事なんだと思った。

 そんな一つ一つの積み重ねが、私にとっての300系の思い出を、形作ってゆくことになるからである。


新幹線300系電車
「ひかり」501号 東海道新幹線品川駅~新横浜駅にて 
2012.1.28
by railwaylife | 2012-02-15 08:00 | 300系 | Comments(0)

返しの300系

 2012年の1月に入り、だいぶ少なくなっていた東海道新幹線300系の運用がさらに減らされ、東京に現れる300系はいよいよ二運用を残すのみとなってしまった。

 その二運用のうち、一番見やすく、かつ確実に見ることのできたのが、昼下がりに都内を往く上りの「ひかり」512号と下りの「こだま」659号の二本であった。先に「尾灯が見たいから」と言って眺めた300系は、この上りの「ひかり」512号であった。

 その「ひかり」512号を多摩川で見送り、東京駅で折り返した300系が「こだま」659号としてまた多摩川へやって来るまでには、40分くらいの時間があった。

 当然、その返しの「こだま」659号も見送りたかったわけであるが、待ち時間の40分間はちょうどいい時間だった、と言える。その間、多摩川の川原でさまざまな風景を楽しむことができたからである。すぐ近くでは品鶴線の列車が眺められたし、少し上流に行けば東急東横線と目黒線の橋梁もあり、多くの電車を目にすることができた。そういう風景をあれこれと眺めていたら、40分なんてあっという間であった。

 もっとも、そんなふうにあちこちで遊んでないで、返しの「こだま」659号をどうやって捉えるのか、もっと真剣に考えていた方が良かったのかもしれない。結局、上りの「ひかり」512号と同じような捉え方になってしまった。
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 でも、そんな私の選択も、いまはいい思い出である。


新幹線300系電車
「こだま」659号 東海道新幹線品川駅~新横浜駅にて 
2012.1.15
by railwaylife | 2012-02-14 23:00 | 300系 | Comments(0)

尾灯が見たいから

 N700系ほど、細長く頼りなくない。

 700系ほど寄り目ではなく、適度に離れている。

 そんな、300系の尾灯が見たいから、東京へやって来る上り列車を背後から捉えることにした。いつもの多摩川橋梁でのことである。

 ただ、後追いの風景は、思った以上にごちゃごちゃとしたものであった。
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 もっと広い場所でその尾灯を眺めればよかったのかもしれない。

 でも、ここは私にとって思い入れのある場所だ。だから、たとえごちゃごちゃとしていても、ここで300系の尾灯を見送ることができて良かったと思う。


新幹線300系電車
「ひかり」512号 東海道新幹線品川駅~新横浜駅にて 
2012.1.15
by railwaylife | 2012-02-14 22:00 | 300系 | Comments(0)

もう一度、たそがれ300系

 これまでさまざまな時間に、さまざまな風景の中で新幹線300系という車両を見送ってきたが、中でも印象的だったのはやはり、たそがれ時に見る300系であった。

 そんなたそがれ時の300系を、もう一度見ておきたい。今年になってからも、そういう想いが心に残っていた。

 それで、たそがれ時の300系を、行き慣れた多摩川橋梁へ待ち構えに行った。正月の松が取れようかという、1月8日日曜日のことである。狙いは、すでに都内ではたそがれ時に唯一やって来る300系となっていた「ひかり」520号であった。

 その「ひかり」520号は、時刻表上では「1月9日からは700系で運転」と注記されていた。つまりこの1月8日は、300系「ひかり」520号の運転最終日でもあった。

 しかし、天気の神様はそんなことを知らなかったのか、いや、知っていてあえてそうしたのか、たそがれ時の天気を曇らせてしまった。もしかしたら、私が「ひかり」520号を見に行こうなどと思った所為かもしれない。
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 だが、たそがれ時とは便利な言葉である。その漢字に「黄昏」と当ててしまえば夕日が出ていないといけないが、語源である「誰そ彼」の字を当てれば、別に夕日が出ていようがいまいが、関係がない。要は、次第にあたりが薄暗くなって、文字通りに出会う人の顔がよくわからなくなっていけばいい。

 そう考えた私は、夕空が雲に覆われていても、ちっとも残念に思わなかった。この時間にもう一度300系を見送ることができる、ただそのことだけでありがたかった。

 さて、そういう曇り空の下で、どういうふうに300系を捉えようか、ずいぶんと迷った。もし晴れていれば、夕暮れ色のきれいな空の部分を入れようかと考えたりもするところだが、それを意識する必要もない。





 悩んだ結果、武蔵小杉のビル群を背景にすることにした。

 高層建築の窓に、少しずつ灯がついてゆく。その中途半端な灯を背景に、今しも300系「ひかり」520号が多摩川を渡ってゆく。
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 まさに想いを込めるべき瞬間であったが、300系の足取りは意外と速く、すぐに都内の建て込んだ家並の中へと吸い込まれて行ってしまった。

 なんだかあっという間の出来事で、その風景をじっくり噛み締める余裕もなかった。でも、たしかに私は、思い描いた「たそがれ300系」の風景を最後にもう一度目にすることができた。そしてそれは、夕日に染まるたそがれ時よりも、ずっと印象的なものであった。


新幹線300系電車
「ひかり」520号 東海道新幹線品川駅~新横浜駅にて 
2012.1.8
by railwaylife | 2012-02-14 08:00 | 300系 | Comments(2)

けっきょく多摩川300系

 どこで300系を見送ろうか。

 遠くへは行けないけれど、いろいろな場所でこの車両を眺めてみたい。だから、ここはどうか、あそこはどうかとあれこれ考えを巡らせてはみるが、結局はお決まりの場所に行ってしまう。

 丸子橋近くの多摩川橋梁である。
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 ここは家から一番短時間でたどり着ける、東海道新幹線の見える場所でもある。だから、どこへ行こうかと迷って300系の通過する時間が迫ってくると、ついつい「ここでいいや」という気になってしまう。



 だが、この場所での見送りは、そういう妥協の産物というだけではないところがある。

 それは、この多摩川橋梁を渡ることで東海道新幹線が東京都から脱け出ることになるからである。そういう節目の場所であり、特に自身が新幹線に乗車しているときには特別な気分になる場所でもある。

 そんな場所で300系を見送るとき、いつか自分が東海道新幹線で西へ旅立つときのことを想う。どうかまた、新幹線で西へ旅立つことができますようにと祈りを籠める。

 多摩川橋梁は、その「儀式」をする場所でもある。


新幹線300系電車
「こだま」659号 東海道新幹線品川駅~新横浜駅にて 
2012.1.8
by railwaylife | 2012-02-13 23:00 | 300系 | Comments(0)