御当地路線

 毎年、大河ドラマのご当地というと、観光誘致などを目的として盛り上がるものである。

 それは、私の記憶だと、時代劇の復活した「独眼竜政宗」あたりから盛んになったように思う。

 もうだいぶ前のことであるが、常磐線の列車に乗っていて亘理という駅を通ったら、ホームいっぱいにびっしりと幟がはためいているのを目にしたことがある。何だろうと思ってよく見るとそれは「炎立つ」と書かれた幟であった。亘理は大河ドラマ「炎立つ」の最初の主人公藤原経清が館を構えた地であった。その幟には、ご当地としての誇りが感じられたものであった。

 最近では、ご当地の駅のみならず、そのご当地を通る鉄道路線がヘッドマークやラッピングを施した車両を走らせるようにもなっていて、鉄道とも無縁のことではなくなってきている。 

 そしてこうしたご当地キャンペーンは、そのドラマの主人公の出身地や地元ばかりでなく、ドラマの舞台になった場所や主人公に関わりのある地でも展開されている。いわば、そのドラマとどれだけ関連性を持てるか、だと思う。

 例えば昨年の「真田丸」のご当地は信州上田で、実際その上田を起点とする上田電鉄には真田丸ラッピング電車が走っていたわけであるが、ドラマの後半で重要な舞台となった大阪城や九度山の近くを走るJR西日本の大阪環状線や和歌山線にも真田丸ラッピング電車が走っていた。こういうラッピング電車は、ドラマへの思い入れが強ければ見てみたい、乗ってみたいと思うし、地元を盛り上げるには有効な手段だと思う。



 ところで、多少こじつけ気味ではあるが、ここ三年連続で大河ドラマに関わりを持つ路線がある。

 それが東急世田谷線である。

 まず、一昨年の「花燃ゆ」は、主人公が幕末の志士吉田松陰の妹であったが、その吉田松陰が祀られた松陰神社は世田谷線の沿線にある。その名も松陰神社前という駅もある。この地に長州藩の吉田松陰を祀る社があるのは、江戸時代ここ世田谷に長州藩の抱屋敷があったことに由来する。それで一昨年は世田谷線に「花燃ゆ」のラッピング車両が走ったりしていた。

 続いて昨年の「真田丸」は、一見世田谷に関係がなさそうに見えるが、上町駅近くにある世田谷城は、真田氏に関わりがないとも言えない。豊臣秀吉による小田原北条氏攻めのとき、北条氏に与していた世田谷城は豊臣軍に攻められることとなるが、その攻め手は「北方軍」などと呼ばれ、関東の北側から進軍してきた前田・上杉・真田等を中心とした軍勢だった、とされている。もっとも、世田谷城は戦をせず開城してしまったし、小さな城の話なのでもちろんドラマにも登場しなかった。でも、真田氏に関わりがないでもない。だから昨年は、例えば「あの真田父子も攻めた(かもしれない)世田谷城」みたいなラッピング電車を走らせれば良かったのに、と思う。

 そして今年の「おんな城主直虎」は、井伊家が徳川家の重臣となるまでを描いた物語であったが、宮の坂駅近くの豪徳寺は、江戸時代になってからの井伊家の菩提寺である。お寺には直虎から二代後の直孝以降の歴代藩主の墓が並んでいる。その豪徳寺の境内を歩いてみると、まるで井伊家の本拠彦根にいるかのような錯覚を得られるものである。ちなみに、豪徳寺駅最寄りの宮の坂駅から三駅先が松陰神社前駅であるが、その松陰神社に祀られている吉田松陰を安政の大獄で処刑した大老井伊直弼の墓も豪徳寺にある。

 また、世田谷線沿線の地域は江戸時代、彦根藩世田谷領と呼ばれた井伊家の領地であった。井伊家とは非常に縁の深い場所である。

 だから今年の世田谷線は、玉電開通110周年も幸福の招き猫のラッピングもいいけれど、もっと「井伊推し」でも良かったんじゃないかな、なんて思っている。例えば「あの井伊家を支えた彦根藩世田谷領(いいね)」みたいなラッピング電車を走らせれば良かったと思う。

 いずれにしても、世田谷線沿線の歴史は濃厚である。

 そんな世田谷線沿線の歴史をもっともっと学びたいと、この路線に乗るたび思っている。
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by railwaylife | 2017-12-28 23:10 | 東急世田谷線 | Comments(0)
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