ちゃんとした窓じゃない電車

 ある朝、通勤の電車に乗っていたら、途中の駅から母子連れが乗り込んできた。お母さんに連れられていたのは小学校低学年くらいの男の子であった。

 乗ってきたときから男の子は何やらゴネていて「だからこのデンシャ、イヤだって言ったのに」と言っていた。

 男の子は、この電車のドアは「窓が小さいんだよ」と言う。

 乗っていたのは東京メトロ7000系である。たしかにこの形式の初期形はドアの窓が小さい。多くの車両は大人の腰の位置くらいまで窓が広く取られているが、7000系の初期形は窓がほぼ正方形で、大人の肩くらいまでの高さしかない。

 男の子はドアの窓から外の景色が見たかったらしい。しかし、窓が小さいのでそれは叶わない。だから「つまんない」んだと言い、次に来る電車に乗りたかったと言っていた。

 「次のデンシャならちゃんとした窓だったのに、知ってるんだから」

と男の子は言う。たしかに、通過する通勤特急を挟んだ一本後の各駅停車は東急の車両で来る。ふつうの大きさの窓を備えた東急5000系・5050系か横浜高速鉄道のY500系が来るからはずれはない。

 それにしても、男の子の「ちゃんとした窓のデンシャ」という表現が何とも面白かった。それに従えば、窓の小さい東京メトロ7000系はちゃんとした窓じゃない電車ということになる。

 そういえば私も子供の頃に似たような経験がある。当時、東横線に乗り入れて来ていた営団日比谷線の3000系にも、ちゃんとした窓をしてない電車があった。その電車に乗ったときには、外が見えなくて悲しい想いをしたものである。でも、今となってはそれもいい思い出である。

 このときの男の子もいずれ、ちゃんとした窓じゃない電車に乗ったことがいい思い出になってほしいなと思う。

 この、ちゃんとした窓じゃない電車も、そう遠くないうちに消えて行ってしまうはずだからである。
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by railwaylife | 2017-03-05 23:30 | 東京メトロ | Comments(0)
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