旅ノート

 私の旅の持ち物に、ノートは欠かせないものである。

 初めて旅のノートを作ったのは小学校三年生のときだった。父に連れられ、初めて夜行列車に乗ったときのことである。その旅の途上で父に「旅先で思ったことを書き留めるようにしなさい」と言われ、感想をノートに書き始めたのが最初であった。

 それが旅に出ると旅日記を綴るようになったきっかけでもあった。

 以来、旅に出る前には必ずノートを用意するようになった。事前に乗る列車の時刻表を手書きで作ったこともあった。特急列車に乗るのに、通過する駅までご丁寧にすべて書き込んだこともあった。それだけ旅の行程が楽しみだったのだろう。

 やがて、旅程表や乗る列車の時刻などはワープロやパソコンで作るようになり、プリントアウトして持って行くようになったが、旅先での感想のメモにノートは欠かせなかった。また、一人旅をするようになると、旅先で使ったお金もすべてノートに記録するようになった。

 その過程で、ノートは次第に小型化していった。旅先のどこでも取り出しやすいからである。また、立ったままでも書きやすいように、表紙の厚いものを選ぶようにもした。

 一人旅のときは、とにかくメモをした。後から後から湧いてくる想いを書き漏らさぬよう、列車の中や駅での乗り換え時間、そして宿に着いてからもメモをした。その日の記録がなかなか書き切れず、夜遅くまでメモすることもあった。

 旅先で浮かぶ想いにも鮮度がある。思ったときにすぐメモしておかないと忘れてしまうし、後から思ったことと記憶が混同され、どんどん変わっていってしまう。それがもったいなくて、とにかくすぐにメモをした。それで、薄いノートなら一冊をひとつの旅で使い切ることさえあった。

 それは、旅先で撮った写真やもらったパンフレットなどよりも、ずっと大事な旅の思い出になった。

 そんな旅ノートを後から見返してみると、ずいぶん汚い字に見える。自分の想いを書き漏らさぬように慌てて書いたということもあるが、揺れる列車の車内で必死に書いていたことも多かった。その字の乱れが、そのとき乗った列車の揺れの証であるとも言える。

 ところで、歴代の旅ノートの中でも究極のスタイルがシステム手帳であった。バインダー型で、中にルーズリーフを自由に出し入れできるタイプである。通常はスケジュール帳として使うのだが、そこにノート形式のルーズリーフばかりを詰め込んだ。

 なぜそんなふうにしたかと言うと、旅の記録は順序立てて書けるものではないからである。書きやすい部分から書いていくことになる。列車で移動するときの車窓風景の感想などは書きやすい。でも、史跡を見学したときの感想は重いからじっくり書きたい。また、ある場所の感想について、後で書き足したいときだってある。そんなときに、ページを自由に組み替えられるシステム手帳は重宝した。

 ただ、これはあまり定着せず、やがて普通のノートに戻った。最近は、無印良品で売っている表紙の頑丈なミニノートを愛用するようになった。


 そんな旅のノートの最新の一冊が、つい先日使い終わった。
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 最初に使い始めたのが2014年8月だから、ずいぶん長いこと使っていた。それだけ、旅のときにノートを使うことが減ってきてしまっているということだ。

 最新のノートを振り返ってみると、乗った列車の時刻と金勘定のメモがほとんどである。あとは博物館を見学したときのメモくらいである。それ以外の見学先や、移動しているときに感じたことのメモはほとんどない。最近の旅では、そういうメモをする余裕がなかなかないということである。

 また、ちょっとしたメモならばスマホを取り出してテキストエディタのアプリに入力していく方が速いということもある。

 そんなわけで、旅のノートを使う頻度は減り、ノート一冊を使い切るにも時間がかかるようになってしまった。

 これではもったいないなと思っている。

 これからはもっと、旅のときの想いを気軽にメモしていけるようでありたい。

 文章になってなくていい。順序立てられてなくていい。ちょっとしたメモが、自分の財産になっていく。そのことをもう一度思い出して、旅のノートを使っていきたい。

 そんな想いを込め、年内のうちには新しい旅ノートを準備したい。

 そのノートをどんな旅に連れて行くのか、どんな旅の思い出を書き留めていくのか、今から楽しみである。

by railwaylife | 2016-12-13 23:50 | | Comments(0)
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