熱き心に2016

 小林旭の歌う「熱き心に」は、幼い頃から慣れ親しんだ曲である。祖父母が好きで、よく聴いていたからだったと思う。

 それで、大人になってからもこの曲をMDに入れ、旅の途中にポータブルプレイヤーで聴いたりしていた。それは、この曲が「北国の旅の空」という歌詞で始まるためでもあった。

 その「北国」を、私は勝手に東北地方になぞらえていた。

 実際には、後の歌詞に「オーロラの空の下」なんて出てくるから、アラスカとか北欧とか、そのあたりなのかもしれない。でも私は若い頃、東北地方を旅しながらこの曲をよく聴いていた。東北地方は私にとって、幼い頃から憧れ続けた「北国」であった。

 ただ、この「熱き心に」を気に入っていたのは、単に歌詞が旅に合うからという理由だけではない。この曲が、大瀧詠一の作曲であったからでもある。

 大瀧詠一の楽曲もまた、幼い頃から慣れ親しんでいた。母が好きでよく聴いていたからである。大瀧詠一の生み出すいわゆる「ナイアガラ・サウンド」は、私の脳裏に染みついていると言って良い。

 小林旭の「熱き心に」もその「ナイアガラ・サウンド」であったわけだから、心地良いことこの上なかった。

 そんな「熱き心に」を、もし大瀧詠一が歌っていたらどんな感じだったのだろうか。是非聴いてみたかった。いつからかそう想うようになっていた。

 そんな願いが、この春に期せずして叶うこととなった。先月発売されたアルバム「
Debut Again」に、まさに大瀧詠一の歌う「熱き心に」が入ったからである。

 お目当ての「熱き心に」は、アルバムの一曲目に入っていた。CDをかけ、聴き慣れた「熱き心に」のイントロが流れた後、大瀧詠一が歌い出した。その歌を聴き始めた直後、私は「やられた」と思った。私が思っていた以上に、大瀧詠一らしい歌い方だったからである。それで、思わず笑みが漏れてしまった。

 また、小林旭の歌はその声質から「重い」という感じがするが、大瀧詠一の歌は「深い」という印象があった。その深さに、私はすっかり魅せられてしまった。

 そして、一曲聴き終わったときに、ひとつ心に強く想ったことがあった。

 それは、この大瀧詠一の歌う「熱き心に」を聴きながらまた東北を旅したい、ということである。

 もう「はくつる」も「ゆうづる」も「あけぼの」も「出羽」も「鳥海」も「八甲田」も「津軽」も「十和田」も「天の川」も「おが」もないけれど、東北の花咲く春の日を、星降る夏の日を、色付く秋の日を、真っ白な冬の日を、いつかまた思うまま旅してみたい。

 この2016年春、私はそんな「熱き心」を持った。
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青森県青森市 青森ベイブリッジ
2000.8.18
by railwaylife | 2016-04-28 23:55 | | Comments(0)
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