渋谷の花

 夏の終わりの朝、久しぶりに代官山駅から渋谷駅まで、かつての東横線地上区間に沿って歩いてみた。

 線路設備はもうだいぶ解体が行われていて、かつてあった風景はずいぶん様変わりしていた。その変わりようを見ながら歩いた。


 それと、あちこちに咲く夏の花にも目を遣った。
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 このフヨウは、かつての渋谷1号踏切から坂を上り切ったところの道端に咲いている。それで、以前この花を眺めていたときはいつも踏切の警報音が耳に入って来た。

 もう警報音が鳴ることはないけれど、花を見ているうちまた警報音が聴こえてきそうな気がした。

 坂を下り踏切跡を横切り少し行くと、車道の間のグリーンベルトにヒマワリが咲いている。地域の人たちが毎夏丹精を込めて育てているものだ。
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 このヒマワリは、踏切を横切る電車の車窓に見えただろうか。

 記憶があやふやになってしまったが、以前にこのヒマワリ越しに何とか電車を撮ろうと腐心していたことがあった。だから、電車からもちらっと見えたんじゃないかな、という気がしてきた。

 踏切跡から先、線路跡沿いの道を伝ってJR線との交差地点に出た。

 そこに架かるトラス橋梁はまだ残っていたが、変わっていることがあった。それは、トラス橋梁のたもとに大きな鉄の桁が出来上がっていたことである。
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 この桁がどういう役割をするのか、このときはまだわからなかったが、トラス橋梁解体の日がいよいよ近付いて来たことだけは確かだと思った。

 橋梁の下をくぐって清掃工場の間を抜け、ムクゲの花を見に行く。
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 ここのムクゲは、トラス橋梁を渡って大きくカーブを描く電車の車窓からいつも見下ろしていた。その車窓風景を、この花を見ながら思い出していた。

 ムクゲ咲く小道を進み、八幡通りをくぐって並木橋の交差点に出る。交差点近くで八幡通りを跨いでいた東横線の橋梁はもう影も形もない。

 その橋梁があった場所のすぐ近くに咲くサルスベリを眺めた。
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 紅々とした色の花が日に照らされるさまはいかにも夏らしく、好きな花だ。 

 二年前の夏、この花越しに電車を見送ったことが、懐かしく思い出された。



 並木橋からは、明治通り沿いに渋谷駅へまっすぐ向かった。

 こうして、地上区間時代に電車の車窓に眺めていた夏の花をめぐってみて、ようやく渋谷の街の夏を感じることができた気がした。



 電車が地上を走っていた頃は、それこそ手に取るようにこの街の季節の変化がわかっていた。

 しかしこの一年半、電車が地下を通るようになってからは、まるで目隠しをされたようにこの街の表情を見ることができなくなった。花の咲き散りも知らず、葉の色の移ろいも知らず、その日の空の色もよくわからないまま渋谷の街を通り過ぎていく。

 そうなってみると、この渋谷の街への愛着は、残念ながら薄れてしまった。


東急東横線(旧)渋谷駅~代官山駅にて
2014.8.23
by railwaylife | 2014-11-03 22:20 | | Comments(0)
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