新宿→大宮 2時間23分の旅

 新宿駅から大宮駅まで行くのに、2時間23分かかった。


 湘南新宿ラインの列車に乗れば30分余りで行けるその区間に、なんでそんなに時間がかかったかといえば、えらい遠回りをしたからである。

 昨春、びゅうプラザで募集していた「魅惑の珍ルートで行く鉄道博物館の旅」に参加したときのことである。

 2012年3月20日に実施されたこのツアーは、普段はなかなか通ることのできない短絡線などの乗車を楽しむために文字通り「珍ルート」で新宿から大宮まで行くという企画であり、大宮到着後は鉄道博物館の見学が楽しめるコースになっていた。

 このツアーは2011年も同じ時期に企画されていたものの、震災の影響で中止になってしまった。でも、2012年は無事に実施された。それで私も、この旅を楽しむことができた。もっとも、2011年はまったく申し込む気がなかったのだが、二年越しで実現となったこの旅に、2012年はぜひ参加してみたいと思って申し込んでみた。

 さて、旅立ちはいつも見慣れた新宿駅である。
f0113552_940920.jpg

 この旅には渋谷駅や恵比寿駅からも参加することができ、私にとってはその両駅からの方が乗りやすかったのだが、もちろん始発の新宿駅からの乗車を選んだ。この日常の最たる場所である新宿駅から旅立てるということが何よりの歓びだったからである。また、新宿駅は旅立ちの駅にふさわしい大ターミナル駅でもある。

 ただ、その旅立ちはわりと慌ただしいものであった。埼京線や湘南新宿ラインの電車が頻繁に出入りする1番線からの出発であったからだ。そういう定期列車の合間を縫って、この企画のための専用列車がやって来た。

 幕張車両センターの183系である。
f0113552_9404888.jpg

 外観を眺めてから急いで乗り込み、指定された席に就く。すると程なく、10時35分に列車は動き出した。まずは大宮に背を向ける形での出発である。山手貨物線をゆっくりと南へ向かう。

 ここから渋谷までは通勤経路の一部であり、それこそ毎日のように見ている車窓風景である。でもそれを特急車両に乗って眺めていると、明治神宮や宮下公園の木立などがまるで違って見えてくる。多少ヘコヘコした183系のシートとはいえ、ゆったりと腰掛けているから気分までゆったりしてくる。そうやって日常の風景を違った形で眺めるのは、実にいい気分であった。

 渋谷駅で特急「成田エクスプレス」10号と行き会い、次の恵比寿駅にも停車する。183系に乗ってこっちはすっかり特急列車気分になっていたから、恵比寿駅に停まるのは何とも違和感があった。

 この二駅で乗車駅はおしまいで、すべての座席が埋まった。乗客は老若男女さまざまであった。

 恵比寿駅を発ち、目黒駅の暗がりから脱け出そうという頃、貨物列車の2077列車と行き会った。うっかりしていて機関車は目に入らなかったが、車窓に長々とコンテナの列が続いた。そのおかげで、いままさに貨物線を通っているんだということは強く実感できた。

 さて、恵比寿駅からは多少速度が上がりいくらか特急列車らしくなってきたが、大崎駅構内にかかるとまた減速し、5番ホームに停車した。運転停車である。
f0113552_9412916.jpg

 ここからはりんかい線へと入ることになる。ちょうど新木場行きの電車が出て行くところであったので、運転間隔を調整するための停車なのだろう。

 新木場行きが発車してから三分の後、この列車も動き出した。輻輳する側線に囲まれながら、ゆっくりと地下区間へ沈んでゆく。埼京線の電車が直通している区間なので、新宿方面からそのまま入ったとしても特に珍しいことではない。でも、特急車両でそこを往くというところに新鮮味があった。その地下区間へ入る瞬間は、宮脇俊三さんふうに言えば「えも言われぬゾクゾクが背筋を走る」ところであろうか。

 やがて車窓は暗闇に包まれる。そこを、70-000形がかすめてゆく。こんな風景を特急車両から眺められることはそうそうないぞと思う。

 最初の駅、大井町をゆっくりと見せ付けるように過ぎて行く。この地下の大井町駅には何度か来たことがあるが、毎回どうも大井町にいるという気がしない。それがこういう形で見せられると、余計に違和感があった。

 三分間隔で前に電車がいる所為か、地下区間の走行は実にゆっくりであった。駅弁を買ってきてもよかったかなあと思った。大宮到着は13時近くの予定である。乗る前は車窓の確認に忙しくて駅弁を食べている暇などないのではないかと思っていたが、この地下区間の間に食べてしまえばいいだけであった。

 そんな多少の後悔をするうちに、闇の中で205系と離合する。暗がりで見る205系もいいものだという気がした。

 そう思ううちに、列車は東京テレポート駅に停車した。ここも運転停車である。
f0113552_9421364.jpg

 新宿から大宮へ向かうのに、なぜ自分がお台場などにいるのかという気がしてきて実に酔狂に思えた。

 時間調整の後発車すると、ようやくにスピードアップし、国鉄型特急車両らしく重々しい走りになってきた。そこへ対向の205系が現れ、私の好きな轟音をトンネル内いっぱいに響かせる。至福のときだ。

 やがて、東雲駅の手前でトンネルを抜ける。すっかり臨海の風景だ。運河がありそれが海に開けて、東京ゲートブリッジが見えてくる。そして、左から京葉線、右から有楽町線に迫られ新木場駅に到着する。
f0113552_9431718.jpg

 ここからがこの列車の最大の見所とも言える。りんかい線から、普段は定期列車の通ることがない連絡線を伝い、京葉線に乗り込むためである。

 そういう山場なのだから、もうちょっともったいぶってもよかったのに、新木場駅での停車時間は意外に短く、すぐに発車となった。ここからはもちろん初めて乗る区間だ。一番「ゾクゾク」すべき瞬間だろう。

 線路は京葉線の高架下から次第にせり上がってゆき、その高架の間に割り入って行く。そして、京葉線と同じ高さとなり、分岐器を乗り越え本線上へと入る。そこまでの流れは、意外とあっさりとしていたものであった。

 旅路は京葉線へと移る。葛西臨海公園の大観覧車が見えてきて、その向こうには東京ディズニーリゾートが姿を現す。鈍足であったので、ここまで50分くらいかかったが、新宿から乗り換えなしでこの湾岸へ来られるというのは楽ではないだろうか。普段から休日などにこのルートで東京ディズニーリゾート利用客向けの臨時列車を走らせたらいいと思う。

 ただ、一つ問題があって、このルートの乗車にSuicaを使うと東京臨海高速鉄道に1円も入らずに通り抜けてしまうとことになる。りんかい線と京葉線の連絡線が普段使われないのはその抑止のためなのかもしれないが、やはりもったいない気はする。

 だったら、この列車のようにツアーとして申し込むようにするか、指定席券と乗車券をセットで売ったらいいんじゃないかと思ったが、そこまでして設定すべき列車なのかどうかわからなくなってきた。

 そんなことを考えているうちに列車は江戸川を渡り、千葉県へと入る。新宿からまっすぐに大宮へ向かえば当然通るはずのない県である。そして、新宿からまっすぐに大宮へ向かえば当然見えるはずのない海が見えてくる。ちょうど新浦安駅を過ぎたあたりは海のよく見えるところだが、列車はそこで減速した。サービスだろうかと思うくらいタイミングが良かった。じっくりと東京湾を眺められた。
f0113552_9435412.jpg

 こうして京葉線の風景を楽しむことができたが、行き交う列車も変わっている。武蔵野線直通の205系ともすれ違う。さっきまでの埼京線・りんかい線では帯の色がダークグリーンだった205系が、オレンジ色の帯に変わっている。すれ違うのは同じ形式なのに帯の色が変わっている。これは面白いことだと思った。

 さて、市川塩浜駅を過ぎたところで列車は北へと進路を取る。武蔵野線の起点である西船橋駅へと向かうためだ。蘇我方面へと続く本線から分岐する。その分岐点をしっかりと見届け、想いは武蔵野線へと向ける。

 やがて西船橋駅の10番線へと進入した。そして停車し、ここではずいぶんと長く停まった。乗客の多いホームの真ん中に放置された感じだ。そしてそのうちに旅客列車はもちろん、貨物列車にも先を越された。

 ようやくに発車となり、武蔵野線の旅が始まった。

 車窓を眺めていると、この沿線は木々が多くていいなあという気がしてきた。もちろんまだ冬枯れの木々であったが、たくさんの木のあることが心地よく感じられた。

 やがて、市川大野駅を過ぎたところでまたしばらく停車した。もとより急ぐ旅ではない。のんびりすればいいと思った。だいたい、走っているときもだいぶ鈍足であった。だからゆっくりと車窓を眺めることができた。しかし、比較的新しく作られた武蔵野線は、切り通しの多いのが残念であった。それでも、時々は高架上に出てぱっと眺めが開けたりして、それはそれで面白かった。

 松戸市内の住宅地を抜け、江戸川を再び渡るとようやくに目的地のある埼玉県へと入った。新宿駅を発ってもう二時間以上が経過していた。

 やっと埼玉県に入ったなあと思っていると、車窓の枯草の中に青い機関車がぬっと現れた。
f0113552_9441635.jpg

 EF510形500番台である。貨物の運用に入っているのだろう。こういう眺めもあるとは、武蔵野線はなかなか気が抜けないなという気がしてきた。

 程なく吉川美南という駅を通過した。三日前のダイヤ改正で誕生したばかりの駅である。新駅ができることは知っていたが、自分の日常とは縁遠いところなのであんまり関係ないなと思っていた。それが、開業四日目にして通ることになった。そんな新駅の周囲は、まだ更地が多い状態であった。

 その先でもまだ比較的新しい越谷レイクタウンという駅を通過し、ほんとに「レイク」があるんだなというのを確認しているうち、車窓にはコンテナが目立つようになった。越谷貨物ターミナル駅で、折しもEF210形桃太郎牽引の貨物列車が発って行くところであった。駅にはコンテナが数多くあり、なかなか盛況だなと感じられる眺めであった。こういう貨物駅の眺めもあるので、武蔵野線は面白い!という気がしてきた。
f0113552_944483.jpg

 列車は住宅街をのんびりと走り続けた。その住宅街には広い公園も多く、梅が咲いていたりして、春ののどかさ、伸びやかさが感じられてきた。こうやって今この季節に旅ができているという幸いを、噛み締めるときであった。

 ただ、あまりにものんびりとしてきたので、乗客の中の子供たちはさすがに飽きてきたようである。すぐ前のボックスに陣取った家族連れには、子供が頻りに「あと何分?」と聞く声があった。

 乗り物に飽きた子供は、必ず「あと何分?」と聞く。それを聞いたところでどうなるものでもないと思うのだが、私からすれば「いまを楽しめよ」と言いたくなることである。しかし、子供の時分ではなかなかそういうことがわからないものだ。私だってそうであった。

 そうやって子供の声に耳を貸すうち、ヒガウラという場所を通る。東川口駅と東浦和駅の間にある有名撮影地である。開放的な眺めのところで、一度来てみたいなとは思っている。

 ここまで来ると、目的地はもうすぐである。南浦和駅で東北本線・京浜東北線と交差し、その次の武蔵浦和駅で埼京線と交差する。そして、武蔵浦和駅を過ぎたところで、いよいよ最後の見どころ、東北貨物線への短絡線に入る。もっともここは普段でも「しもうさ」号などが通っているところだから、りんかい線から京葉線への連絡線ほど珍しいものではないのだが、私としては興味津々であった。

 短絡線は本線から右へ分岐し、高い高架でぐるりと弧を描いてゆく。そして、武蔵浦和駅先でさっきくぐったばかりの埼京線と東北新幹線をまたくぐる。つい何分か前に見た風景を、巻き戻してまた見ているようであった。

 その後はトンネルに入ってしまう。東北貨物線に合流するさまは「ヒミツ」というようにである。そのトンネルの中で列車は妙に速度を上げ、ようやく特急列車らしい快走を体感することができた。

 トンネルを抜けると京浜東北線の与野駅が見え、東北貨物線に合流する。そしてさいたま新都心駅をゆっくりと通過すると、大宮駅の構内に入る。車内放送が「まもなく大宮です」と告げ、ようやく終着に到着するなという感覚になった。やれやれ、という感じである。でも、実に楽しい旅路であった。

 列車は12時58分、大宮駅11番線に到着し、2時間23分の旅は終わった。
f0113552_945446.jpg

 なかなか面白い企画ではあったが、ちょっとだけ残念に思ったのは車内放送である。

 車内放送は、運転停車中にどこの駅かを告げたのと、あとは「どうぞ車窓をお楽しみください」というような決まり文句だけであった。

 せっかく珍しいルートを通っているのだから、できればその珍しさをもっと強調してほしかったなと思った。短絡線ができた経緯や、その歴史などについての解説があればよかったと思う。もちろん詳しいものでなくていい。ちょっとした案内でいい。でも、そういう案内があれば、もっと参加者の気分が盛り上がったんじゃないかなという気がした。

 さて、このツアーには大宮の鉄道博物館の入場券が含まれていた。大宮駅から鉄道博物館駅までのニューシャトルの往復乗車券も付いていたので、行かない手はなかった。もっとも、天気が良かったので、博物館の屋内にいるのはもったいない気もしたが、鉄道博物館は御無沙汰であったので、この機会に楽しむことにした。

 それで久しぶりに博物館へ行き、そこで私はさまざまな「風景」を眺め、さまざまな想いを持った。
f0113552_9453926.jpg

 その想いの数々については、またこのブログにぽつぽつと載せていければと思っている。

by railwaylife | 2013-03-20 10:00 | | Comments(2)
Commented by HERO at 2013-03-20 17:13 x
こんにちは。

りんかい線から京葉線への連絡線体験は貴重でしたね。
小田急MSEにも、一時期短絡線を使用して新木場行の「ベイリゾート」の運転がありましたが、運転されなくなってしまいました。運転日が少ない割に煩わしいのかも知れません。

「武蔵野南線」は「ホリデー快速鎌倉」で、国立支線と西浦和支線は115系時代の「むさしの」で体験しました。特に武蔵野南線は「ゾクゾク」感大きかったです。今年も設定があるかわかりませんが、常磐線からの「ぶらり鎌倉」は武蔵野南線が経験できる上に臨時列車ながら貴重な「急行」なので、設定があれば時間をつくって乗りに行きたいと思います。

Commented by railwaylife at 2013-03-20 23:11
HEROさま、こんばんは。
コメントありがとうございます。

短絡線は乗ってみるとあっという間ですが、実に興味深い区間です。

そういえばMSEの新木場行きはいつの間にか運転されなくなってしまいましたね。湾岸への需要はありそうですが、列車の設定の仕方が難しそうですね。

急行「ぶらり鎌倉」号はこのシーズンからE653系で運転されるようです。この車両が短絡線や貨物線を往く姿も興味深いですね。
<< LSEの旅 桜見快速 >>