富士見夕景01 富士見目黒線

 東急目黒線の車窓風景を思い浮かべたとき、その見所はどこにあると言えるだろうか。あまりないように思える。

 まず、始発の目黒駅は地下である。ただ、その暗闇からはすぐに脱け出せる。そして目黒川を越える。春には右窓にソメイヨシノ、左窓に八重桜を望める。しかしそれは一瞬の眺めで、すぐに高架上の不動前駅に押し込められる。すると、その先にはすぐにまた地下区間の入口が待ち構えている。

 陰鬱な地下に電車の轟音が響き、武蔵小山・西小山の両駅を過ぎる。やっと抜けて空が見えたかと思うと、目の前はまた地下に片足を突っ込んだような洗足駅である。その先も、屋根のない地下区間みたいな切り通しが続き、それを抜けたかと思えば大岡山駅の暗がりに吸い込まれる。ここも地下駅である。

 この先がようやく、少し落ち着いて車窓を眺められる区間であろうか。大岡山駅から脱け出せば、東工大のキャンパスに緑がいくらか広がる。もっとも、昔はここの線路沿いに桜並木もあったが、地下化に伴い消えてしまった。

 ただ、ここからは目黒線唯一の地上区間であり、いくらか車窓が楽しめる。ようやく地に足が付いたような感じだ。右手に検車区を見ながら奥沢駅を過ぎれば、秋にはキバナコスモスが線路際を彩ったりする区間である。

 だが、東横線が見えてきて左にカーブして行けば、またまた地下区間に呑み込まれてしまう。田園調布駅である。すでに東横線に挟まれる形だ。そして、この駅の地下から出れば、あとはもう終着の日吉駅までほとんどが複々線の高架区間である。左右を東横線の上下線にがっちりと固められ、高架の両側にはひたすらに家並が続いていく。開発著しい武蔵小杉駅周辺では、にょきにょきと現れる高層住宅を見上げることにもなる。

 そんな複々線区間にあって、目黒線の車窓に最も劇的な変化をもたらすのが、多摩川を渡る前後であろう。河川敷の開放的な眺めはもちろん、多摩川駅周辺の緑もけっこう多い。もっとも、ここも昔は多摩川の川原へ出る切り通しがもっと狭く、浅間神社や多摩川台公園の木々が欝蒼としていたように記憶しているが、今はその切り通しがだいぶ広くなってしまい、川原へぱっと脱け出るという演出もさほど効果をもたなくなってしまったように思う。

 とは言え、多摩川を渡るという一大イベントの車窓は印象的だ。そしてその車窓をさらに魅力的にしているものがある。

 富士山の眺めである。
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 首都圏を走る路線からは、車窓に富士山の見える路線は多い。しかし、全部の路線から見えるというわけではない。都会の谷間に阻まれているだけの路線もある。そういう中にあって、わずかの間とは言え、その山容がはっきりと眺められる目黒線は、富士山の見える路線として、特筆に値するのではないだろうか。

 それだけで、東急目黒線の車窓も捨てたもんじゃないなと思えるものである。


1枚目 都営6300形電車 東急目黒線多摩川駅~新丸子駅にて 2011.10.16
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枚目 東京メトロ9000系電車 東急目黒線多摩川駅~新丸子駅にて 2011.10.16
by railwaylife | 2012-10-17 22:30 | 東急目黒線 | Comments(0)
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