橋梁をめぐる旅

 これまで、列車に乗ってさまざまな車窓風景を眺め、また列車のある風景を見たり撮ったりしてきた。

 それらの風景を振り返っていま改めて思うのは、鉄道風景において、橋梁で川を渡る場面がいかに印象的かということである。

 列車に乗って車窓を眺めているとき、川にさしかかれば身を乗り出すようにして窓外を注視する。大きな川であれば特にそうだ。トラスを渡るけたたましい通過音を耳に気にしつつ川面を見つめ、川原を見遣る。そこには風景の劇的な変化があるので、車窓の流れにおける大きな転換点になると言える。実際、川の流れが県境になっているようなところもある。

 そんな車窓の転換点にある橋梁は、列車の往く風景を眺めるところとしても絶好の場所だ。直線の長い橋梁であれば列車全体をヘンセーシャシンとして捉えられるということもあるが、それ以上に良いのは、川のあるおかげで風景が開放的になり空が広く見えるところだ。その広さが心地良い。また、川原には草木の緑があって、四季折々にその表情の変化を楽しむことができる。天候によって川面の色の違いも楽しむことができる。そして何より、列車が橋梁を渡るときの響きが良い。

 そういう橋梁の風景を、これからもっと楽しんでみようと思った。旅のひとつのテーマとしてである。

 その最初の旅に、2012年8月10日に出かけた。

 橋梁をめぐる旅、その第一弾である。





 橋梁を眺めるために最初に向かった場所は、中央本線の日野駅である。
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 この駅から線路沿いを東京寄りの立川駅方面へ10分程歩けば、多摩川の川原に出る。そこに、中央本線多摩川橋梁がある。この橋梁のある風景を、最初に楽しむ風景と決めていた。

 実は、この橋梁は以前に一度見に来たことがある。ちょうど二年前のことで、このブログの「少し先の中央本線へ」という記事に書かれている。ただそのときは、立川方の川原から橋梁を眺めていて、また時間も夕暮れ時であった。それで今回は、反対側の日野方の川原へ午前中に来てみた。見る場所も時間も違えば、見える風景はだいぶ変わってくる。だから、新鮮な気持ちでこの橋梁の風景を眺めることができた。

 ところで、この橋梁を最初に選んだのはずっと来てみたい場所だったということもあったが、単に橋梁の風景を見たいというだけではなかった。それは前回訪れたときの記事のタイトルにもなっているが、日常より「少し先の中央本線」を眺めたいという想いが常にあるからでもある。

 通勤で日常的に新宿駅付近の中央本線を目にしている私は、常にその先の中央本線の風景を想っている。日常ではないどこか他の場所を想うというところに私の生きる糧がある。だから、もちろんこの多摩川橋梁も、そうやって日常で想う風景のひとつであると言える。それを今回は、じっくりと見に来た。
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 ただ、ここはまだ東京都内である。私のその先の中央本線を想う気持ちはこんなところに留まらない。もっとずっと遠くまでも続いている。その想いを、この橋梁からさらに先へと乗せることも今回の目的であった。そんな気持ちで、遠くへ行く特急列車も見送っていた。
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 さて、この辺りの中央本線はけっこう運転本数が多く、ひっきりなしに列車が橋梁上を行き交った。近くの豊田車両センターへ出入りする回送列車もあるからだろう。それで短い時間にさまざまな風景が楽しめたのであるが、そのすべてをここにベタベタと貼ってしまうのはもったいない気がするので、別の記事として後日掲載することとしたい。

 ただ、そうやって次々と列車が来る所為で川原ではあまりのんびりとする余裕もなく、頻繁に行き交う列車を眺めるのに追われてしまった。それでも、少しは川原の風景を楽しむこともできた。
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 この日は朝から暑く、ジリジリとした日差しがあったが、薄青い夏空が広く見えて夏らしさを十分に感じることができた。

 一方で、川に吹く風はどこか涼やかで、川原に伸びた背丈の高い草をサワサワと揺らす音が実に心地良かった。見れば足元の草には赤トンボも飛び交っていた。

 また、橋梁のすぐ下流にはちょっとした段差があり、そこを流れる水から適度なせせらぎも聴こえてきた。無理に作られたせせらぎとはいえ、列車が来る合間にそれを聴いているのも楽しいことであった。来て良かったな、と思える場所であった。

 しかし、これで満足してはいけない。まだ次の目的地がある。

 日野駅に戻ってバスに乗り、多摩川沿いを遡って次の鉄道橋梁を目指す。

 次はこの橋梁である。
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 ずいぶん遠景で捉えてしまい、走っている電車も何なのかよくわからないが、これはバスを降りてから川原を歩いているうちに橋梁へ電車が来てしまったので慌てて撮ったものである。

 近くにたどり着いてから捉えたのがこの風景である。
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 走っているのは八高線である。ここは八高線の多摩川橋梁だ。

 あまり馴染みのない八高線であるが、地図で多摩川の流れを追ううちにこの橋梁の存在に改めて気付き、なかなか立派そうな橋梁に感じられたので来てみた。小宮駅と拝島駅の間に架かる橋梁である。

 遠景の写真からもわかる通り緑の深いところである。また、川原は広いが川幅は狭くなっていて、上流に来たなという感じがしてきた。川原の緑も多くなって、草いきれのするようなところであった。その川原では、せせらぎよりも蝉の鳴き声が優勢であった。

 ところで、この橋梁を渡る八高線は中央本線のように列車本数が多くない。この日中の時間帯では30分間隔である。そのため次の電車を待つまでの時間ができて、川原の風景をのんびり眺める余裕も出てきた。それで川原の緑をぼうっと見遣っていると、夏だなあという感じがしてきた。
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 ただ、相変わらず日差しは強かった。薄い雲が太陽にかかってはいたものの、日差しはそれを突き抜けてきた。そこで、電車を待つ間は橋梁の真下に入り日を避けた。

 と言っても、ここの橋梁下は完全な日陰ではなかった。
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 それでも、下にいればいくらか涼しく感じられた。

 それにしても、こういうガーター橋だと、電車が通過するときには相当に音が響きそうである。電車が来るまでそのまま真下にいて轟音を体感してみたくもあったが、それはもったいない。やはり、橋梁を電車が渡る風景が見たいので、橋の下から脱け出て目的の風景をしっかりと楽しんだ。
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 さて、ここからさらに多摩川の上流へと向かう。

 まずは最寄りの小宮駅まで歩き、そこから八高線に乗った。八高線に乗車するのは実に久しぶりであった。恥ずかしながら、この辺りが電化されてからは初めてではないかと思う。

 電化路線での初乗車を果たし、さっき眺めていた橋梁にかかる。ここで私は、重大な勘違いに気が付いた。

 川原にいるとき私は、川幅が狭くなって上流っぽくなってきたなんて悦に入っていたが、実際に橋梁を渡ってみると、ここには大きな中洲があり、川の流れが大きく二分されていた。私はその片方の流れだけを見て川幅が狭くなったと喜んでいたわけである。地図でも確認していたはずなのに、そんなふうに思い込んでいた自分がひどく恥ずかしくもあったが、同時に、反対側の川原に行けばまた違った橋梁の風景が見られるのではないか、という楽しみも出てきた。実際、対岸近くの川幅は私が見ていた方よりも広く、川遊びに興ずる子供たちの姿も見えたりした。ゆっくりと訪れてみたい場所であった。

 川を渡り切って住宅地の中をしばらく走ると、電車は大きなターミナルに着いた。拝島駅である。青梅線と接続し、五日市線が分岐し、西武線も乗り入れる要衝だ。ここで下車し、駅構内で昼食をとった。

 食事を済ませた後、今度は青梅線に乗車した。そして青梅方面へ二つ目の福生駅まで行った。ここの駅前からバスに乗り、再び多摩川の川原を目指した。

 次の目的地は五日市線の多摩川橋梁である。それなら五日市線に乗って向かえば良さそうなものであったが、私が目指す場所はバスで行った方が近いように見えた。それは、橋梁の西岸を目指していたからである。東岸であれば熊川という駅からすぐであったが、西岸の最寄り駅東秋留からはだいぶ歩かなければならないように地図上では見えた。そこで別の方法はないかと調べたところ、福生駅からバスで行くのが良さそうであった。

 それで福生駅に降り立ったのだが、ここでなんと乗るバスを間違えてしまった。丁寧に乗るバスの時刻を調べてきたのに乗り間違えてしまうとは、自分でも準備が良かったのか悪かったのかよくわからなくなってきておかしかったが、とにかくそのバスを多摩川の岸辺で下車した。予定していた停留所よりも、ずっと上流でバスを降りることになってしまった。

 でも、幸いなことに川沿いの東岸に緑地公園が整備されていて、涼しい木立の中を抜けながら下流へ向かうことができた。また、途中からは日当たりの良い川原を歩くことになったものの、コスモスの花を見つけることもできたので、なかなか楽しい道のりであった。
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 ただ、私が目指した橋梁の西岸へは立ち入ることができなさそうであった。本当はできたのかもしれないが、行き方がよくわからなかった。それで結局、東岸から橋梁を眺めることになった。

 西岸にこだわったのは、午後になると東岸からの眺めが逆光になるからであった。でも、そんな撮影上の都合は結果的に二の次であった。要は、橋梁のある風景を楽しむことであった。その意味では、川原の幅が広い東岸の方がさまざまな風景を目にすることができ楽しめたと思う。

 まずは堤防上からトラス橋を眺めた。
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 その後川原に出て、電車が川を渡る風景に見入った。
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 川原には水遊びの中学生や散歩の人の姿があったが、人はまばらでのんびりとしたところであった。そして、川原はずいぶんと石のごろごろしたところであった。それまでに訪れた二つの橋梁の場所と比べると、ずいぶんと川原の様相が変わってきた。
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 そんな石の川原を眺めていると、小学生のときに川の上流・中流・下流における川原の変遷みたいなことを習ったなという記憶が蘇ってきた。今回の旅は、それをまさに実地で目の当たりにすることとなった。

 石は川の流れの中にもあり、速い水の流れがその石にぶつかり心地良い音を作り出していた。下流の二つの橋梁にあったせせらぎは人工的に作り出された段差が作り出したものであったが、ここは本当のせせらぎだなという感じがした。

 ところでここの五日市線の多摩川橋梁は、多摩川の本流に架かる鉄道橋梁としては最も上流にある橋梁である。この橋梁をくぐった水が八高線の多摩川橋梁をくぐり、中央本線の多摩川橋梁をくぐり、やがて私が普段よく行く東急東横線・目黒線の多摩川橋梁、そして東海道新幹線・品鶴線の多摩川橋梁もくぐる。さらに下って海へと続く。そのことをこの場所で想うと、何だか不思議にさえ感じられた。でも、そうやって川の流れというものを改めて感じることのできた一日であった。

 そんな旅の最後に、ずっと見てきた多摩川の水をちょっと触ってみようと思った。それで、川の流れにそっと手を入れてみた。

 見た感じには清涼な水だったので、触ったらきっと「つめてっ」となるんだろうなと思っていたが、実際には「ぬるっ」と声を上げたくなる感じであった。午後になってから強い日差しが戻っていたし、日当たりもいい場所だったから、水が温められていたのだろう。でも、そのギャップが面白かった。

 それにしても、ずいぶんと川を遡ってきたなという印象があった。ここまで来ると蝉の鳴き声よりも鳥のさえずりの方が大きくなっていた。川風もだいぶ涼しく感じられた。いいところに来たな、と改めて思うことができた。

 これで今回の橋梁めぐりは終わった。いずれの場所も東京都内であったが、非日常を感じることができ、楽しい旅であった。旅の目的地が遠いから良いとか近いから良くないということはない。大事なことは、訪れた先の風景をどれだけ楽しめるか、そしてその風景にどれだけ非日常を感じられるかだと思う。

 橋梁からの帰途は五日市線沿いを歩き、熊川駅に出た。そこから一駅で拝島駅に戻り、再び八高線に乗った。そして、もう一度多摩川橋梁の眺めを楽しんでから八王子駅まで出た。その途中、浅川橋梁というこれまた魅力的な橋梁を目の当たりにしてしまった。

 八王子駅からは中央快速線で一気に都心へと向かった。そして、新宿という日常を突き抜け、その先で私はさらに橋梁のある風景を楽しんだ。
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 これからも橋梁の旅を続けたいという想い、そして楽しみを込めてである。



 
 鉄道の橋梁と一口に言っても、さまざまである。

 長い橋梁もあれば短い橋梁もある。高い橋梁もあれば低い橋梁もある。格好良い橋梁もあれば格好悪い橋梁もある。そして、遠くにある橋梁もあれば近くにある橋梁もある。

 そんなさまざまな橋梁のすべてを楽しみたい、というくらいの気持ちで今はいる。

 もちろん、ただ単に橋梁を往く電車を眺めて撮ればいいというものではない。橋梁がある場所の空、川の流れ、川原の緑、その地域の歴史、風土、表情、それらを含めて楽しむことだ。

 そんな旅を、これから続けていけたらいいなと思っている。

by railwaylife | 2012-08-13 22:30 | | Comments(2)
Commented by 大石俊六 at 2012-08-18 04:01 x
多摩川も上流になると流量が少ないから橋脚スパンの長いトラス橋がないなーと思ってみていたら、あるのですね。どういう橋にトラスを使うかというのは結構面白いテーマなのではないかと思い始めました。
下流で鉄道橋で築造年代が古いとこれはトラスになる。あと、大河川が市街地にある大阪、名古屋周辺は多くて、東京には少ない。面白いのは伊豆で、普通の川の道路橋にさりげなくトラスを使っています。そんなことに思いをはせる面白い記事でした。
Commented by railwaylife at 2012-08-18 10:08
俊六さま、おはようございます。

興味深いお話、ありがとうございます。

私も今回の橋梁めぐりをして、なぜ多摩川の鉄道橋梁は最上流と下流がトラス橋なのかと実に不思議に思いました。

どういう形状の橋梁を選択するかということには、いろいろと理由がありそうですね。地域によって差があるというのも興味深いです。伊豆のトラス橋は見に行ってみたいものです。



今回訪れた五日市線の多摩川橋梁ですが、川面を渡る部分にはトラスはなく、河川敷の部分だけにトラスの桁があるという独特の形状でした。
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