ゴールデンウィークの終わり頃、渋谷駅から東急東横線の下り電車に乗っていたら、中目黒駅を出てすぐの左窓に、やけに目立つ白い花が見えた。
思わず目を奪われたその花は、若葉の青々と茂る木に咲いていた。青い葉の中で白く映えていて、見えた瞬間にはハナミズキだろうかとも思ったのだが、よくよく見れば花はハナミズキよりも小さく、またプツプツとしているようにも見えた。
何の花だろうか、と非常に気になっていたので、その二日後の朝、通勤の途中に中目黒駅で降り立って、木の近くまで行ってみた。
蛇崩川の暗渠沿いにあるその木は、暗渠上の駐輪場と線路の間の狭いところに納まっていた。そこに咲いている花を、じっくりと見ようと思った。
だが、車窓に見たときには白く良く映えていたように感じられた花が、近くで眺めてみるとあまり目立たなかった。
車窓にちらっと見えたときには思わずはっとするほど白く映えていたのに、そばまで来てみたらそれほどでもない。それでちょっとがっかりしてしまった。
でもどうしてあまり白く映えないのだろうと思い、カメラを取り出してレンズをズームにし、花に近寄ってみた。
花は黄緑がかった色をしていた。そしてやはり小さく、ふわっとした感じであった。車窓に見えたような、白ではなかった。これではあまり目立たないな、という気がしてきた。
車窓風景というのは動いているだけに見える時間も短く、錯覚とまではいかないものの、現実とは異なり美化されて見えたりする。だから、こうして実際にその場に来てみると、思ったほどの風景ではなかったりもする。でもそれが面白い。
それに、このあまり目立たないなぞの花がある風景も、初夏を告げるひとつの風景なんだという気がしてきた。
それで、花越しに往く通勤電車を何本も見送り、また身近な場所の花で季節の変化を感じ取っていた。
いや、そもそもこれが花なのかどうかもよくわからなくなってきていた。
東急
5050系電車(5170F) 東急東横線中目黒駅~祐天寺駅にて 2012.5.8