ナノハナさがし

 2012年4月1日、日曜日の午後、自由な時間が少しできた。

 天気も良かったし、せっかくだからどこか自分にとっての「いい風景」を探しに行こうと思い、ぶらぶらと外出してみた。

 ただ、この日はまだ桜の開花宣言が出された翌日であったので、さすがに桜を見に行ってみようとは思えなかった。もちろん、あちらこちらの花の咲き具合を確かめたいとは思ったが、そのためだけに出かけようという気はしなかった。

 じゃあどこへ行こうかと考えているうち、この時季に見に行くべき風景があることを思い出した。

 菜の花の咲く風景である。

 桜はまだ咲き揃っていなくても、菜の花はもうけっこう咲いてるんじゃないか。そんな気がしてきて、私にとっての「菜の花の名所」へ行ってみることにした。

 その名所とは、東急池上線の大崎広小路駅からとなりの戸越銀座駅にかけての区間である。この線路沿いに何箇所か菜の花が咲く場所があって、以前にも一、二度見に行ったことがあった。そこへこの春も行ってみたくなった。

 そう思い立ったところで、大崎広小路駅へと進路をとった。

 山手通り上にあるその駅へ行くには、バスで向かう方が早いような気がした。それで中目黒駅からバスに乗ったものの、思っていたよりもずっと時間がかかってしまった。バスを降り立ったとき、ようやく着いたなという気がしたものである。ただそれで、時間がなくなってしまったと焦ることもなく、その「やっと着いた」という感覚がかえって目的地への期待を膨らませてくれたように感じた。

 駅前にどんとそびえる「ゆうぽうと」のビルの裏側に回り込むと、細い路地の先に池上線の小さなガードが見えてくる。その手前の土手に黄色い花がうわっと群れていた。見頃の菜の花である。

 ただ、ここの花は線路と沿線の住宅のわずかな狭間にあって、何とも見にくい。それで、もう少し戸越銀座寄りにあるはずの「名所」を目指すことにした。線路が切り通しになっているそっちの場所の方が、花を見下ろす形になって眺めがいい。そう思って、線路沿いをぶらぶらと歩くことにした。

 と言っても、線路に沿って道がずっと続いているわけではない。住宅が建て込んだこの辺りはなかなかに道が複雑だ。起伏もあり、袋小路もある。そこを多少迷いつつ、線路に絡むようにして歩く。だが、思うようには進まず、結局は大通りの国道1号線へ出て、その道沿いを歩くことにした。

 ただ、その国道1号線の沿道もなかなかにごちゃごちゃしている。首都高速2号線の出入口があったりするおかげで交差点が複雑になり、横断歩道をいくつも越えていかなければならない。それで、ようやくの思いで通りを越え、再び池上線沿いに出た。

 その辺りが目指す「名所」であったはずだが、緩い切り通しの斜面には緑色の草しかない。何年か前にここへ来たときには菜の花が群れていたのに、今年は黄色がまったくない。不思議であった。

 ここの菜の花は花期が遅いのだろうか。いや、すぐ近くの土手では今しも花が咲き誇っていたのに、わずかな距離で違いがあるものだろうか。ということはもう、ここには菜の花が咲かないのだろうか。実に不思議だと思った。

 やっとの思いで目的地に着いたものの、見たかった花はちっとも咲いていなかった。でも、がっかりすることはなかった。ただ、なぜ咲いていないのか不思議だという気持ちだけがあった。そして、その「不思議だ」と思っている自分が面白かった。



 さて、ここに花がないのなら別のところで楽しもうと思った。大崎広小路駅から歩き始めて最初に見た土手の花を、もう一度眺めに行くことにした。

 それでまた大崎広小路駅の方へ戻ろうとしたが、ここへ来るまでの道はけっこう遠回りだったような気がしたので、道を変えることにした。もう少し線路に寄り添った道があったように思う。

 そこで行きとは線路を挟んで反対側を歩いて行くと、小さな踏切に出た。そのたもとに、ちょっとだけ菜の花が咲いていた。それで、そこへ電車が現れるのを待ってみることにした。

 ただ、花は日陰にあった。それで明暗のある風景になってしまった。
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 もうちょっと、花の黄色が輝いたらいいのにな、という気はした。

 さて、目的の土手が見えるところへ戻りたい。だが、ここからは線路沿いに道がない。それでも、なるべく線路に近いところを行こうと、狭い路地に入り込んでみたりしたが、行き止まりばかりであった。もちろん路地の入口にちゃんと「この先行き止まり」という標識が出ているところもあるが、そういうところばかりではない。標識がないから大丈夫かなと思って入ってみると、進路が塞がれてしまったりする。そんなときはちょっとがっかりもするし、イライラもするが、そう感じていてはもったいない。来た道を、笑いながら戻ればいい。

 そうやってまた行きつ戻りつしながら大崎広小路駅方面へと進んだ。行きにも感じたが、住宅地の中には妙な高低差があったりする。それで、この辺りの地形はいったいどうなっているのだろうという気がしてよくわからなくなってきた。でも、そうやって「よくわからない」と気付いたのがまた面白いことであった。

 迷い歩くうち、土手の菜の花が見える跨線橋に出た。谷山橋という。ここで、池上線の電車が、花を、春をかすめてゆくのをしばし眺めることにした。
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 少し強引なアングルだったし、菜の花も日陰の中であったが、暗い表情をたたえた菜の花もいいものだなという気がしてきた。
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 下り電車はさらに強引なアングルであったが、ここの風景を眺めているうちに、池上線の春を、たしかに感じることができた。

 帰り道、山手通りを越えて目黒川沿いに出てみた。桜並木のあるところだが、花はまだほとんど咲いていなかった。よくよく見てみれば、一輪、二輪と咲いているのが確認できる程度であった。

 そんな桜の咲き具合を確かめてから五反田駅へ向かい、山手線に乗って帰途に就いた。

 本当に小さな小さな、春の旅であった。


東急
7700・7000・1000系電車 東急池上線大崎広小路駅~戸越銀座駅にて 2012.4.1
by railwaylife | 2012-04-25 22:49 | | Comments(2)
Commented by mattiew at 2012-04-26 17:57 x
こんばんは。

都会の片隅に菜の花が線路沿いに…この光景はいいですね。
きっと乗客の方も和む事でしょうね。
私は菜の花って3月のイメージがあるのですが、
意外と4月も頑張って咲いてますよね。

ほんのひとときの小さな春の旅でしたね。
Commented by railwaylife at 2012-04-26 22:17
mattiewさん、こんばんは。
コメントありがとうございます。
小さな春の旅を楽しむことができました。

そうですね、この場所の菜の花を見るのに一番いいのは電車の車窓かもしれません。この路線は3両編成でいつも混み合っている印象があるのですが、満員電車でも花が見えればホッとするのではないかと思います。

菜の花は場所によって咲く時期がまちまちの気がします。私の通勤経路でも、まだ頑張って咲いているところがありますね。
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