馬込の朝

 日の出時刻の10分前、東の空はさしたる色には染まっていなかった。

 いや、何か劇的な夜明けの色を期待しているからいけなかった。たとえほんのりとでも、空が朝焼けの色に染まっているだけでありがたいことであった。

 そしてそこへ、時刻通りに300系がやって来てくれるだけで、ありがたいことであった。
馬込の朝_f0113552_2310920.jpg

 でも、私が馬込の駅から内川の谷を下って上って駆け付けたこの場所を、300系はあまりにも素っ気なく、あまりにも平然と通り過ぎてしまった。こうして私が朝に300系を見送るのはこの日で最後だという想いを込めていたのにである。

 いや、そうやって最後だとか言って劇的な風景に仕立て上げたがっているのは私の勝手である。だから、風景の方はあまりにもあたりまえに作り上げられていく。

 そんな風景を見送りながら私は、もう最初だとか最後だとか関係ないんだと思った。この寒い寒い朝、この寒い寒い場所で、300系を見送った。ただそのことが大事なんだと思った。

 そんな一つ一つの積み重ねが、私にとっての300系の思い出を、形作ってゆくことになるからである。


新幹線300系電車
「ひかり」501号 東海道新幹線品川駅~新横浜駅にて 
2012.1.28
by railwaylife | 2012-02-15 08:00 | 300系 | Comments(0)
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