東北の旅2011夏 その2
>>東北の旅2011夏 その1
米沢駅に着いた私たちは、駅前からタクシーに乗り、わくわく舘というところへ行ってもらった。 駅前からへ真っ直ぐに西へ続く道を、タクシーは行った。 やがて川を渡った。妻が「何川?」と聞くので、私が「最上川」と答えると、運転手さんが「五月雨をあつめて早しとは程遠いんですが。この辺の人は松川とも呼びます」と補足をしてくれた。確かにここは大河最上川でもだいぶ上流の方で、まだまだ川幅も広くない。 この最上川のことをきっかけに、運転手さんはいろいろな話をしてくれた。何でも松川の上流の方に住んでいらっしゃるとのことで、家の近くには滝があると言っていた。涼やかな話ではあったが、この辺りは冬の雪が非常に深く、冬場の生活がいかに大変かということもずいぶんと詳しく説明してくれた。ただ、雪を除けばいいところで、風水害も少なく安定しているという。また、先日の震災のときも、この米沢を含む置賜地方はまったく停電しなかったそうである。何でも新潟の方から電気を引いてきているそうだ。 雪の話などをいろいろ聞くうちにひんやりした気分になってきたが、目的地に着いて車を降りれば、モワンとした暑さがあった。それで私たちは目指す建物の中へすぐに入った。 私たちが訪れたわくわく舘というのは、米沢織の機織体験ができる施設である。着物好きの妻が、そこで実際に機織をやってみたいということで来てみた。 受付で申し込みをすると、機織の置いてある部屋に冷房が入っていないということで、急いで入れていただくことになった。それで売店で織物関係の土産物をしばらく眺めた。やがて係の方が、まだあまり冷えていませんがと恐縮しながら、私たちを機織の部屋へと通してくれた。 妻が機織体験をする間、私は特にすることがない。だから私も機織体験に一緒に申し込んでも良かったが、何せ幼少のみぎりより「自分、不器用ですから」と言って何事も通してきた私であるから、機織などできるはずもなかった。 妻も「私、不器用なんで」と恐縮していたものの、係の方に「誰でもできますから大丈夫ですよ」と励まされ、実際楽しく織っていたが、私の場合はきっとそんな微笑ましいやり取りが展開されることはなく、本当に殺伐としたものになってしまうだろう。だから、妻が織っているところを「写真に撮ってあげるよ」と言ってそばで控えていることにした。 妻はコースターを織った。最初はとまどっていたものの、係の方の親切な指導のおかげで次第に織り方にリズムも出てきて、いい作品ができた。 そうやって妻が織っていく様子を見ていたときにふと思ったのは、縦糸と横糸が一織りごとに絡み合っていくさまの大切さである。その一織り一織りがあってこそ頑丈な織物が出来上がる。あたりまえのことではあるが、改めて気付かされた気がした。 機織体験はあっという間に終わってしまったが、この施設で販売している織物を少し見せていただくことになった。黄金繭という、黄色の繭を使った織物もあったが、その繭の独特の黄色が何とも印象的であった。 さて、このすぐ近くに米沢藩主上杉家の廟所があるので、わくわく舘を辞した私たちは、そこへお参りしていくことにした。 鬱蒼とした杉木立の続く参道に入ると熱い日差しを避けることができてよかったが、それ以上に嬉しかったのは、東京ではすでに枯れているあじさいがまだいい色をして咲いていたということである。 そんなあじさいに夢中になりながら、参道を奥へと進んだ。 中央に上杉謙信公の廟所があり、その左右に歴代米沢藩主の廟が並ぶ形だ。有名な上杉鷹山公の廟もあった。 謙信公の廟所に参った。上杉家は、必ずしも本意とは言えぬまま東北へやって来た大名ではあるが、この地を長く治めた家であることには変わりない。その上杉家の廟所で祈ることは一つ、この東北が穏やかに鎮まってほしいということだけであった。 お参りを終え参道を戻って行くと、途中にある旗印が目に付いた。上杉家といえば「毘」と「龍」である。 それを見て思い出したが、小学生のとき、メモ帳にこの字を一所懸命に真似て書き、それをセロテープで割り箸に止めて旗を作っていた覚えがある。上杉家の旗印は、小学生の私にとって憧れだったと思う。 そんな思い出に浸りながら、またあじさいを眺めつつ参道を歩き、杉木立から出た。廟所を見て回っている間は雲がかかって多少日差しが遮られていたものの、また午後の熱い日が戻ってきていた。その日差しの下、道端にタチアオイの花を見つけた。あじさいと同様、この花もまだ元気で、嬉しく思えた。 暑い中、大通り沿いで米沢駅行きのバスをしばしを待った。呆然として来るような暑さであったが、バスが来てキンキンに冷え切った車内に入ると、本当にホッとしたものである。 街中を行くうち、車窓にタチアオイがずいぶんと目に付いた。夏空の下でタチアオイを見てみたい、という私の願望があったが、この米沢ではその風景をいくつも目にすることができた。 米沢駅に戻り、山形行きの「つばさ」を待つ。少し時間があったので、私たちは観光案内所で時間を潰した。特に目的がなくても、こういうところで情報を得るのはとても大事なことである。今回は訪れることができないとしても、また山形へ来たいと思わせるための場所が見つかったりするからである。このときもそんな場所を二、三仕入れておいた。 列車の到着時刻が近付いたところでホームに入り、山形行きの「つばさ」を出迎える。 ここからは自由席を利用する。座れるかどうかという不安は多少あったが、拍子抜けするほど車内はガラガラであった。 日差しを避けて右窓側の席に就く。冷房のよく効いた車内でゆったりとした座席に就くと、暑さからすっかり逃れてようやく落ち着いた気分になれた。 米沢にいるときには時折雲に日が陰ったりしていたものの、また強い日差しのある夏空が続くようになった。 高畠・赤湯の両駅を過ぎると妻が居眠りをしてしまったので、私は一人でぼんやりと窓外を眺めた。 低い山並の続く、青と緑だけに彩られた車窓がのんびりと進む。それを見るうちに、ようやく遠くへ来たなあという感じがしてきた。 米沢に着いたときは、不思議とあまり「遠くへ来た」という実感がなかった。東京から一度も乗り換えなしで着いてしまった所為だろうか。でも、ここへ来てその実感のなさも取り戻すくらい「ああ、遠くへ来たなあ」という想いが強くしてきたものである。そしてそれと同時に、夏を旅してるなあ、東北を旅してるなあという気もしてきた。 妻が目を覚ますと、程なく山形駅に到着した。すでに時刻は16時になっていたが、まだまだ暑さの続きそうなくっきりとした空が駅の頭上に広がっていた。
by railwaylife
| 2011-08-21 22:16
| 旅
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