東海道本線の線路近くに、ちょっとしたイチョウ並木があるのを、だいぶ前から知っていた。
それで、初冬の頃になったら真っ黄色のイチョウの葉越しに寝台特急の「サンライズ」でも眺めてみたいものだ、なんて考えていたけれども、せわしない日常の中でそんな想いもどこか彼方へと行ってしまい、気が付けば葉もない真冬になっていた。
次の初冬まで、イチョウ越しの「サンライズ」という風景は待たねばならないのか、と思い、またその風景への想いは遠くへ行ってしまっていた。だが、ついこの前、近所の大通り沿いにあるイチョウを何とはなしに目にしたとき、ふと気付いたことがあって、この風景への想いが再び近くへ戻ってきた。
私がふと気付いたのは、イチョウの見頃は、何も初冬だけではないということである。
新しい葉が出たばかりのこの初夏もまた、イチョウの見頃であると言える。若々しい緑の葉が、黄葉とはまた違った彩りをその場所の風景に添える。
そんな若葉のある風景を想ったときに私は、新緑のイチョウ越しに往く「サンライズ」の姿が見てみたくなった。
それで今朝、その場所へと行ってみた。
イチョウ並木の見える場所へ着いてみると、すっきりしない曇り空の所為もあって、若葉は暗い暗い表情をしていた。でも、こんなふうに冴えない色の空と冴えない色の新緑も、皐月にはよくある風景だ。
よく「五月晴れ」などというので、この5月の空は晴れて気持ちの良いイメージが強い。でも、実際には昨日や今朝みたいにどんよりとしてちょっと薄寒く感じるような天候のことも、けっこう多い。そんなときに新緑は、濃く暗い表情をする。その姿もまた、皐月らしいということである。
そんな皐月らしい風景の中を、寝台特急「サンライズ」が往く。
ずいぶんと久しぶりに私は、寝台特急の姿を見た。ずいぶんと久しぶりに私は、夜通し駆けて来た列車を目にすることができた。
寝台特急「サンライズ出雲」「サンライズ゙瀬戸」
東海道本線品川駅~大井町駅にて 2011.5.6