選択肢がある、ということ

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 ある人が、ある場所へ向かおうとしたとき、その場所へ向かう道が一本だと知ったら、どう感じるだろうか。迷うことがないと喜ぶだろうか。でも、その一本の道に何か障害があって通れないとしたら、どうするだろう。道は一本しかないのか、と思うのではないか。



 東北新幹線が一部区間で運転を見合わせている今、今月初めから運転を再開している寝台特急「あけぼの」は、東京から青森へ直通で行ける貴重な列車となっている。この「あけぼの」が青森までつながっている意義が、今こそ発揮されていると思う。

 私は常々、長距離旅客輸送には選択肢が必要だと思ってきた。特に、鉄道の長距離旅客輸送の担い手をすべて新幹線に任せるのはどうかと思っていた。

 ただ、ここで言う選択肢とは、何も経路上のことだけではない。列車の所要時間や設備も含めてのことである。

 もちろん、航空機や新幹線によって短い時間で目的地に到達できるということは大変素晴らしいことである。中でも新幹線は、安全性も非常に高い。

 しかし、誰もが航空機や新幹線をありがたがれるわけではない。

 たった二時間、三時間でも、座りっぱなしであることがつらい人もいる。健常に暮らしていればそれはなかなかわからないことであるが、そういう人も世の中にはたくさんいるはずである。

 それを考えると、自由に足を伸ばしたり、寝転がることもできる寝台列車は、貴重な存在だと思う。時間はかかってしまうが、姿勢を楽にして移動したいという人も多いだろう。

 そういう意味でも私は、在来線の寝台列車というものがもっと見直されて良いのではないかと考えている。

 無論、今は震災で被災した路線や車両の復旧が最優先である。しかし、長い目で今後の長距離旅客輸送体系を考えたとき、寝台列車という選択肢はあっても良いと思う。

 それに私は、寝台列車と言っても豪華寝台特急を新設してほしいなんていう気持ちはさらさらない。だいたい、新しい寝台列車というと豪華な列車だという今の発想がいけない。

 別にスイートルームは要らない。きらびやかな食堂車も要らない。ごくふつうのスタンダードな設備を、廉価で提供すればいい。

 もちろん、豪華寝台特急で移動そのものを目的として楽しませるというのも、寝台列車の役割であり魅力ではあると思う。だが、それよりも今は、移動の手段となるような寝台列車が必要だと私は考える。そういう、どこかとどこかをつなぐという使命を帯びた寝台列車こそが、本来のあるべき姿であるように感じる。そして、そんな寝台列車が、人々が移動する手段の選択肢の一つになってほしいと思う。

 ただ、寝台列車を走らせるには、いろいろなコストがかかる。車両だけがあればいいというものではない。列車の走る深夜帯に、沿線の設備を稼動させたりしなければならない。

 しかし、実は多くの幹線では、深夜帯も貨物列車が頻繁に行き来している。そういう路線であれば、新たに設備を稼動させたりする必要もないのではないかという気がする。

 そうやって、必要最低限の投資によって、長距離旅客輸送の選択肢を増やすことはできないものかと、私は考えている。

 もちろん、長距離旅客輸送を運営しているのは営利会社であるから、収益性も考えなければならない。しかし、旅客輸送には公共性も必要である。世の中のいろいろな人にとっての文字通り「足」でなければならない。そして、今回のような非常時にも、多くの代替手段を持つことによって、どこかとどこかをつなぐという役割をできるだけ維持してほしいと思う。そのためにも、寝台列車の復権を含め、在来線を再び長距離旅客輸送の担い手にするということは考えられないものだろうか。



 さてここで、冒頭の話に戻りたい。

 どんなことでもそうだが、それしかないと思うことは、つらいことだと思う。

 例えば、人生という道も「この道しかない」と思い詰めると、つらい。他の道もあるんだと思えば、楽になる。

 それは決して逃げではない。予期せぬことが起きる人生において、自分が人生を続けていくために、そしてまた希望を持ち続けるために、必要な考え方であると思う。

 病気を経験したりしたこともあって、私はこの歳にして未だに自分の人生の道がはっきりと見出せないでいる。でもそれも、ようやくぼんやりとではあるが、見えつつある。

 そんな私にこの前、親友がこんな言葉をくれた。


もし君が、これだという道を見つけたとしても、決してそれしかないと思うんじゃないよ。



復活!寝台特急「あけぼの」 東北本線尾久駅~赤羽駅にて 
2011.4.3
by railwaylife | 2011-04-22 23:46 | 寝台特急 | Comments(0)
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