2077列車への想い

 先月の後半から今月の初めにかけて、私が日常目にしていた山手貨物線はすっかりひっそりとなってしまった。電力不足の影響により、湘南新宿ラインと特急「成田エクスプレス」がすべて運休となっていたからである。埼京線の電車は動いていたが、私の日常である渋谷-新宿間では、朝夕の通勤時間帯を除いてはそれほど本数がなく、閑散とした線区になっていた。

 そんな中でも、東京貨物ターミナル駅と隅田川貨物駅を結ぶ2077列車は、この山手貨物線に変わらず現れているのだと、私は知った。

 旅客列車は走っていなくても、貨物列車は走っている。そのことを思ったとき私は、宮脇俊三氏の書いたある一文が想起された。



私の小学校時代、地理の時間に先生が、「鉄道はなんのためにあると思うか」と質問したことがあった。一斉に手があがり、当てられた生徒が、
「人を乗せるためです」と答えた。
「ちがう」と先生が言った。もう手はあがらなかった。「鉄道は貨物を運ぶためのものだ。人間なんかついでに乗せてもらっているのだよ」という意味のことを先生は説明した。私たちは子供心に情ない思いがして、しゅんとなった。

(宮脇俊三『時刻表2万キロ』 河出書房新社 1978年)




 これは昭和初期の話であるから、もちろん今とはいろいろな意味で時代が違う。今や航空機が飛び交い、トラックが行き交い、国土は空港や高速道路に溢れる時代である。

 だが私は、鉄道の貨物輸送も含めて、今ほどこの国の物流というものを強く意識することはなかったのではないかと思っている。物が運ばれて届くということを、今ほどありがたく思ったことはなかったのではないかと思っている。

 そんなことを考えながら私は、今月最初の週末に、2077列車を見送りに行った。

 表参道に用事のあったこの日、私は最寄りの原宿駅で列車を見送ることにして、ホームの代々木寄りでカメラを持って待ち構えていた。

 渋谷方に目を凝らしていると、駅の改札へ続く跨線橋と神宮橋と五輪橋の向こうに、機関車の姿が現れた。いつも通り、のっそりとした走り方であったが、私としては一刻も早くやって来てほしかった。

 というのも、ホームには山手線内回り電車の接近放送が流れていて、間もなく目の前の視界がその内回り電車によって塞がれようとしていたからである。

 しかし、もとより2077列車が速度を上げるわけもなく、私はホームの中程に下がって内回り電車の入線をやり過ごすしかなかった。

 だが、内回り電車のE231系500番台がホームに完全に納まっても、まだ2077列車の姿は現れていなかった。

 それで私は再びカメラを構え、E231系500番台の脇から飛び出てくる機関車を狙った。
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 貨物列車なんだから、本当はコンテナ車が長々と連なっているさまを捉えたかった。でも、こうしてE231系500番台の横をすり抜けていく機関車の姿もまた山手貨物線の貨物列車らしいかな、という気がした。

 その機関車が目の前を過ぎて行くのを見送ると、貨物列車はさらに速度を落とした。そして、ゆっくり、ゆっくりと、視界にコンテナが流れていった。

 この日のコンテナは満載であった。まるでスローモーションのように過ぎて行くそのコンテナを何気なく見ていると、一つ一つに小さな紙片が貼られていて、荷の行先らしきものが手書きで記されていた。札幌、帯広貨物、水戸、越谷、宇都宮という文字が、私には読み取れた。

 この2077列車が、単に始発駅から終着駅への荷物を運んでいるのではなく、中継列車になっているということは、以前から何となく想像が付いていた。すなわち、東海道貨物線の終着駅となっている東京貨物ターミナル駅から、常磐線・東北本線・高崎線方面の貨物列車の始発駅となっている隅田川貨物駅へ、荷をつなぐという役割である。

 このとき、いくつかのコンテナの行先を知った私は、そういう2077列車の役割を、改めて知る想いであった。そして、地味な存在ではあるけれども、いまこのとき、日本の物流の一翼を担っているのだと思うと、熱い想いが込み上げてきた。

 私は、今まで日常の中で何気なく見送っていた2077列車を、このときほど頼もしい存在だと感じたことはなかった気がする。
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 いま、湘南新宿ラインは全列車が運転を再開し、特急「成田エクスプレス」も一部の列車が運転されるようになった。これまで通り、山手貨物線の旅客線としての役割が増してきたわけであるが、貨物線としての役割も大事であることを、忘れてはならないと思う。


山手貨物線2077列車 山手貨物線渋谷駅~新宿駅にて 2011.4.2

by railwaylife | 2011-04-13 23:02 | 貨物列車 | Comments(0)
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