惜別6000系

 私は、自分がつくづく愚かしいなあと思う。



 ある路線に、日常よく目にする車両があった。それは、その路線やその鉄道会社を代表する車両と言って良いくらい数が多いため頻繁に見かけて、当たり前のように日常にあった。だから、その車両が往く風景を目にしても、珍しいとも何とも思わなかった。

 だが、歳を経るとその車両も古びてきて、花びらが一枚、二枚と散っていくように、数を減らしていく。そういえば最近あまり見なくなったなあと気付き、写真でも撮っておくかと考えるが、注意して見てみるとけっこう走っていたりして、まあそのうち撮ればいいやなんて思い、なかなか撮らない。

 そうしているうちにも数が減り、ついにその車両が引退しますなんていうニュースを目にし、慌ててカメラを持って駆け付ける破目になる。

 でも、そうなったときにはもう遅い。あれだけたくさんあった車両も、わずか一編成とか二編成になってしまい、撮影するチャンスが限られる。しかも、かつては長大な両数を連ね、優等列車の運用に就いていたというのに、もはや編成を短くされ、地味なローカル運用に就く。それは、その車両本来の姿ではない。いかに「さよならヘッドマーク」が付いていて「レア」だったとしても、その車両が華々しく活躍をしている姿とは言えない。

 そんな姿を撮影するのは、例えて言うなら満開の花を撮らず、わずかに一輪だけ残った花をありがたがって撮るようなものである。しかもその花はもう、しおれかかかっている。

 それでも「あれだけ満開できれいだった花が、ついに残り一輪になりました。そして今しも散ろうとしています!」なんていう仰々しいニュースに釣られて、ついついそれを撮りに行ってしまうものである。



 京王電鉄の6000系電車も、今やそんな散り際の花である。わずかに残った数本が、しおれかけながらひっそりと咲き続けている。かつては10両も連ね、本線の優等列車運用で華々しく駆けていたのに、今や最小の2両編成となり、枝線の運用に細々と就いているだけである。

 そんな2両ぽっちの6000系を、ありがたがって見に行っても仕方ない。しおれかけの花を見に行っても仕方ない。そう思いつつも私は、かつて大学への通学で散々利用したこの6000系の散り際を、見に行ってしまった。たまたまネットで目にした「ありがとう6000系イベント」のニュースに釣られてのことである。まったく愚かしいことだ。

 私が通学していた頃、大学の最寄駅に直通する朝の通勤快速が、いつも6000系の10両編成であった。その通勤快速にはよく乗ったものである。そのときの6000系の姿を偲びたかったけれども、時すでに遅しである。何せ編成は2両である。
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 わずかに車内の号車札に残る「10」の数字に、当時を偲んでみる。
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 これは、最近まで時折本線の10両編成運用に就いていたときの名残であろう。いや、こんなものを今さらありがたがっても仕方ない。

 やっぱり、もっと以前からこの車両の勇姿を目に焼き付けておくべきであった。6000系がいずれ淘汰されることは、もうだいぶ前からわかっていた。その間、この車両を眺める機会はいくらでもあったはずだ。でも、日常にかまけて、それをしなかった。愚かなことだ。

 そんな後悔を感じながらも私は、一輪の花の残り香をかぐように、わずかに残った6000系にほんのわずかな区間だけ乗り、その感触を心に深く刻んでいた。
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 そして、この車両を見納めるつもりで、去り行く姿を見送った。
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 本当は、10両編成で優等列車の運用に就いている6000系をきちんと見納めるべきであった。



 どんな車両でも、やはり満開に咲く花のような姿のときを、記録や記憶にとどめるべきだ。散り始めてから、あるいは散り際になってから慌てても仕方ない。それこそ桜の花びらが舞うように、散り際が美しければまだ良いけれど、決してそういうことはない。しおれていくように、枯れていくように、運用がだんだんと減り、去って行く。そうなってからの姿は、やはり美しくない。

 だから私は、今のうちから、東急東横線の9000系や、JRの185系や、新幹線の300系など、昔から見慣れて気に入っている車両を日常の隙間の中でしっかりと記録や記憶にとどめておきたいと、改めて思った。それらの車両は、もはや満開とはいえないが、まだまだ見頃ではあると思う。



京王
6000系電車
1枚目 京王競馬場線東府中駅にて 2011.1.19
3
枚目・4枚目 京王競馬場線府中競馬正門前駅にて 2011.1.19
by railwaylife | 2011-01-22 21:18 | 京王 | Comments(2)
Commented by HERO at 2011-01-23 15:55 x
こんにちは。

京王6000系は小田急9000形と同世代で、9000形ほどスタイリッシュではないものの、いつも気になっている存在でした。
京王電鉄、いや私はどうしても「京王帝都電鉄」という方がピンときます。
「KEIO」ではなくて、「K.T.R」です。

今は引っ越してしまったのですが、いとこが昔高幡不動に住んでいて、よく遊びに行きました。
思い出の多い車両、時代の流れと言えば仕方ありませんが、私も今のうちに6000系の姿を記録しに行きたいと思います。
Commented by railwaylife at 2011-01-23 23:20
HERO様、こんばんは。
コメントありがとうございます。

このとき見に行った6000系はリバイバルカラーで、写真は載せませんでしたが、側面には「K.T.R」マークが付いていました。

「K.T.R」マークというと、これを逆から読むと「あるってけー(歩いていけ)」になるので、昔はみんな京王電車に乗らないで歩いたんだという、本当のような嘘のような逸話を子供の頃に聞いたことがあります。

6000系は文字通り京王の「顔」みたいな車両であり、京王線に縁のあった多くの人が、この車両に何らかの思い入れを抱いているのではないでしょうか。

来月からは、高幡不動も通る動物園線で「さよなら」マークの付いた6000系が走るそうなので、HERO様もいらしてみてください。
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