長さ二倍 2

 知らない、ということは恥ずかしいことである。ましてや、その知らないことに気付かずに、人と話をしたり、ブログに記事を書いたりすることは、まさに「恥の上塗り」である。

 しかし、これだけ情報が溢れている現代にあって、すべてを知るということは、それこそ神様にでもならなければ無理だ。特に私がこのブログで扱っているような趣味の世界は、所詮プライベートなものであるし、仕事や資格試験の勉強で必要な知識や技術のように正確さや緻密さがそこまで求められるものではない。いや、求めようとしても、せわしない日常の中でその完璧さを求めることは、正直言って難しい。

 とは言え、世の中にはどんなことにでもその道の達人とでも言うべき人がいて、私などがここによく知らないままでいい加減なことを書いたりすれば、そんな人たちに「何を言っているのだ」と蔑まれてしまうだろう。

 また、以前にも書いたことだが、インターネットという世界にこうして何かを書く以上、それを誰が何処でどのように活用しているかは計り知れないということも肝に命じておかなければならない。

 そういう意味で、たかがブログ、されどブログであって、知らないで適当なことは書けないなと思ってしまう。

 とは言え、やはり個人がやっているブログには限界がある。もちろん、私が自分を表現する手段として、このブログは大切にしているけれども、仕事だ家事だ何だという中で片手間にやっているというのが現実である。だから、情報の正確性、迅速性においてはどうしても甘くなるところがある。それは、受け手の側に認識していただきたいことである。


 ところで、最近の私は、知らないことに気付いたとき、その知らなかった自分というのを楽しむようにしている。そして、知ったときの自分とのギャップを面白がってもいる。

 知らないことを知るということは、利口になるということである。そして、知らないときと知ったときでは、まるで行動が違ってくる。そのギャップが、自分にとっては面白いということである。

 もちろんこれは、自分の中ですべてが完結する場合の話である。知らないことで人に迷惑をかけてしまったなら、それは素直に自分を恥じ、相手に詫びなければならない。楽しいとか言っている場合ではない。また、知らなかったことで不利益を被ったがために、自分に腹を立てたり、あるいは開き直ったりした上に、相手に責任を転嫁することなどは言語道断である。

 しかし、知らなかったことを恥じ、後悔し、自身を責めるだけでは、自分のためにもならない。自分が塞いでしまう。それよりも、知らない自分を笑えばよい。そして、知らないことを知った今の自分を認めればよい。少しは利口になったということである。それからまた、知らなかったことを知った上で、行動の仕方を変えればよい。今まで知らないで行動していたときより、ずっとその行動が楽に、また有益になってくるはずである。そのときに、今まで苦労していた自分と今の自分を比べて楽しめばよい。なあんだ、こんなことだったのか、という「気付き」である。その「気付き」が自分にとって大切だ。


 さて、私は何を長々と書いてきたのかといえば、要するに「知らなかったことを知った」という出来事があっただけのことであり、それを弁明するためにだらだらと言い訳じみたことを書いてみたまでのことである。それもようやく気が済んだので、そろそろ本題の「知らなかったことを知った」という話に入りたい。






 今年の初夏の頃から私は、E259系という車両を追ってきた。日常に近い山手貨物線や品鶴線で頻繁に見られるこの車両を私は、ただ「見た目がカッコイイ」という理由だけで注目してきた。

 ただ、私が普段目にするE259系というのは、6両編成の小ぢんまりとした姿ばかりであった。しかし、特急「成田エクスプレス」として運行されているこのE259系は、東京駅で山手貨物線方から来た車両と品鶴線方から来た車両を繋ぎ、12両編成となって目的地の成田空港へ向かうことになる。そんな特急列車らしい長大編成のE259系を、私は見てみたいと思うようになった。

 そのためには、東京駅以東の総武本線沿線まで出向かねばならなかったが、私は夏の暑い盛りにわざわざ総武本線市川駅まで出かけて行って、12両編成のE259系を眺めたことがあった。いつも見る6両編成が、二倍の12両編成でやって来たということで私は悦に入り、そのときのことを「長さ二倍」という記事に綴っている。

 だが、実は総武本線まで行かなくても、山手貨物線で「長さ二倍」のE259系を見ることができる。東京駅で12両編成が分割されずに、すべての車両が山手貨物線に入ってくる列車があるからだ。例えば、成田空港発池袋行きの「成田エクスプレス」48号などがそれに当たる。全車両が、終点池袋まで切り離されずに駆け抜ける。

 秋の頃だったか、仕事帰りにたまたまその48号を見かけた私は、なんだ、山手貨物線にも「長さ二倍」があるんじゃないかと思ったものである。

 しかし、この48号の渋谷着は20時35分、新宿着は20時42分で、日もとっぷり暮れてから山手貨物線を走ることになる。だから、その「長さ二倍」のE259系が堂々と駆けていくさまを撮影することは、無理であった。やはり、12両編成のE259系が走る姿を捉えるには、また総武本線まで行かなければいけないなと私は考えていた。

 ところが、明るいうちに山手貨物線を駆ける12両編成のE259系もちゃんとあった。新宿発8時02分の「成田エクスプレス」13号である。これも、新宿から成田空港まで、全区間が12両編成の列車である。

 この13号が12両編成であるということを知ったのは、実はついこないだのことである。何とも恥ずかしいことであった。わざわざ総武本線にまで「長さ二倍」を眺めに行った自分が馬鹿らしくもあった。

 しかし、無理もない。私は今までこの「成田エクスプレス」13号をほとんど目にしたことがなかったからである。

 平日だと、13号が走る新宿8時02分、渋谷8時08分というのは、通勤にはちょっと早い時間である。休日の通院の途中に見るのは9時台、10時台くらいの列車だったし、どこかへ出かけるついでに眺めたりするのは、もう少し早い時間の列車であった。この8時台の13号だけが、私の目にする対象からすっぽりと抜けていた。

 でも、それが何だかおかしくもあった。また、今さらながらもそのことに気付いたという自分が良かったとも思った。これから好きなだけその13号を眺め、いわゆる「長さ二倍」のE259系を身近なところで楽しめば良いだけだからである。

 その最初の機会を私は、この前の日曜日に作った。

 さて、この「長さ二倍」を最初に楽しむ場所としてはどこがよいか。私はまた、渋谷駅近くの跨線橋を選んだ。ついこの前も、185系の回3493Mを見送ったり、貨物列車の2077列車を眺めたりしたところである。私はこの場所が気に入っている。特に、恵比寿方へ走り去る山手貨物線の南行列車を背後から捉えるのが好きだ。

 それで私は、またお決まりの場所へと朝から出かけた。回3493Mのときのこともあるので、現地には少し早めに着いた。

 出足の遅い冬の朝日はビルに阻まれ、まだ線路上に日差しは回っていなかったけれども、そんなことは気にしなかった。私の頭の中には、恵比寿駅に向けて走り去る「長さ二倍」のE259系長大編成の姿がすっかりイメージされていた。

 埼京線や湘南新宿ラインの電車を何本か見送り、ようやく「成田エクスプレス」13号を迎える時刻となった。被るかもしれないと心配した埼京線の753K普通赤羽行きも事前に走り去り、12両編成のE259系を迎える準備は整った。いつになく、カメラを持つ手が緊張していた。思えば馬鹿らしいことである。

 私がいる跨線橋の階段に一番近い線路上に、列車の迫り来る気配がした。そして目の前を、12両の特急列車がゆっくりと過ぎ去って行く。やがて、私の構えたカメラのファインダーに、その全車両が入り込んだ。最後尾の車両に、わずかながら日差しが当たった。
長さ二倍 2_f0113552_21192394.jpg

 山手貨物線を往く「長さ二倍」のE259系を、巧く表現できたであろうか。

 長く弧を描き、恵比寿駅の構内へと吸い込まれて行くその列車を、私はじっと見送っていた。そしてこれからも、この「長さ二倍」を、身近なところで楽しもうと思った。

 こうして、特急「成田エクスプレス」13号が12両編成であることを知った私は、また一つ自分の楽しみを増やした。それは、こうやってブログに長々とした記事を書くほどのことではないかもしれないが、そのことを知らない私よりは、ずっと幸いだと思っている。


E259系特急「成田エクスプレス」
成田エクスプレス13号 山手貨物線恵比寿駅~渋谷駅にて 2010.12.26


関連記事 「長さ二倍

by railwaylife | 2010-12-29 21:35 | E259系 | Comments(0)
<< 歳末築地行 師走の課題 >>