青い客車

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 青い客車、といえば、今はブルートレインのことを指すと言っても良い。あとは細々と生き残る12系や14系の座席車のことを言うくらいであろう。

 しかし、ふた昔前くらいには、それ以外にも青い客車があった。旧型客車と呼ばれる一群である。

 旧型客車、といえば、茶色というイメージが強い。実際、現在もイベント用として残る旧型客車はほとんどが茶色である。その色が「旧型」というイメージを醸し出すわけだが、私が見た現役時代の旧型客車は、茶色と青色が半々くらいの割合であった。そして、茶色だけの編成、青色だけの編成もあれば、茶色と青色が混結している編成もあった。私は茶色い客車への思い入れが強かったが、青い客車もけっこう気に入っていた。

 そんな青い客車の中で、私が最も印象に残っているのは、常磐線の鈍行列車である。上野から水戸・平(現在のいわき)方面の普通列車は私が幼い頃、青色の客車列車であった。そして、あの寝台特急「ゆうづる」と同じピンク色のEF80形電気機関車が牽いていた。

 その列車が、上野駅から重々しく北へ向かって旅立っていた。青くて古い客車が都会を発つさまは、当時でさえ何だか隔世の感があった。今の常磐線のE531系電車とは比べようもない古めかしさである。それでも、家族旅行でこの青い客車に何度か乗ったことのある私にとっては、良き思い出である。

 だが、青い客車の末路は哀れであった。国鉄の消滅と前後して次第に現役を追われていった青い客車は、幹線沿いの側線で野ざらしになっていた。私はそんな客車をあちこちで見かけた。常磐線沿線はもちろん、山形県内の奥羽本線沿線、九州の鳥栖駅でも目にしたのを覚えている。かつての鮮やかな青は色褪せ、何とも無残な姿であった。 

 私の脳裏に残るその青い客車を眼前に蘇らせてくれるのが、冒頭に掲げた写真である。ただ、これは私が撮ったものではない。この写真を撮ったのは、私の大伯父(母方の祖母の兄)である。



 山が好きで旅が好きで、国内外を問わずあちこち出かけていた大伯父は、鉄道にもただならぬ興味があって、昔の鉄道の話を私にいろいろとしてくれた。そしてこの写真も、黒部峡谷へ行った大伯父が私のために撮ってきてくれたものである。だから、私にとってはとてもとても大切な写真である。
 
 そんな大伯父の命日が一昨日10月5日であった。亡くなってから今年で十一年が経つ。もちろん私は命日をちゃんと覚えていて、仕事から帰ったら実家にある仏壇に手を合わせようと思っていた。

 ただ、考えてみると今の私の勤務地は大伯父のお墓に近いなということに気が付いた。大伯父のお墓がある寺は、丸ノ内線の新高円寺駅のすぐ近くだ。私の勤務地である荻窪から新高円寺までは、わずか二駅四分である。それなら、通勤の途中にも寄れるし、昼休みにだってお参りに行ける。

 だが、そのことに思い至ったのは一昨日の昼休みも終わろうとする頃であった。だからもう、その日に墓参をすることは叶わなかった。日の暮れた仕事帰りでは、お寺も閉まっているだろう。私は、ひどく不義理をしてしまったように感じた。

 それで私は、昨日10月6日の昼休みに、新高円寺へと向かった。

 荻窪の駅には花屋があるので、そこでお供えの花を買って行きたかったが、あいにくそこはオシャレな花屋で、仏花などはなかった。仕方なくちょっとシャレた花束にでもしようかと思ったが、昼休みに花束を手に地下鉄に乗るのも何だか気恥ずかしかったので、手ぶらで荻窪駅を後にした。

 わずかな地下鉄の乗車で新高円寺駅に着く。
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 何度も墓参りに来ているので、駅から寺への道はよく覚えている。ただ、寺に着いて大伯父の墓前に立ってみると、ひどく久しぶりの訪問のような気がした。私は前日に来られなかった非礼をまず詫びながら、手を合わせた。

 お参りを終え、目を開けて顔を上げると、秋空が広く見えた。
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 スーツの上着を着込んできたので、暑く感じられたけれども、境内に吹き抜ける風はやけに冷ややかであった。

 しばらく墓前に佇んで、寺を後にしようとすると、金木犀の香りがほのかに鼻をついた。見れば、奥まった墓所に大きな金木犀の木があった。大伯父の命日は、金木犀の香る季節でもある。
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 墓前でゆっくりしすぎた所為か、昼休みの時間が残り少なくなってしまった。駅前へ戻って慌ててハンバーガーに食いつき、地下鉄で荻窪駅に戻ると、午後の始業開始の五分前であった。職場まで駆け出さんばかりに急ぎ足で向かいオフィスに着くと、ちょうど午後の仕事が始まる時刻であった。何とも慌しい昼休みになった。

 先日の祖母の話と、この大伯父の話が続いてしまったが、私にとって初秋とは、ことさらに強く亡き人を想う季節であるように感じる。それに、祖母にしても大伯父にしても、この私の「レィルウェイライフ」に多大な影響を及ぼした人であるから、敬意と謝意を込めて、ここにその想いを記しておきたいと思う。



 さて、青い客車の話に戻ると、今でも静岡の大井川鐵道に行けば、動く青い客車が見られるようである。蒸気機関車の走るこの鉄道にはずっと行きたいと思っていながら、なかなか訪れる機会がない。そんな大井川鐵道へ、青い客車への想いを胸に、近いうちに訪れることができたらいいなと思っている。


1枚目 青い客車 北陸本線富山駅にて 1987.5.9

by railwaylife | 2010-10-07 22:36 | 昔の写真 | Comments(0)
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