あじさい列車2010 第7章

 昨日の午前中は、妻に買い物を頼まれ、代官山へ行ってきた。

 何だか「代官山で買い物」なんていうと、高級でオシャレな感じがするが、何のことはない、どこにでもあるチェーン店のサンドイッチを朝食用に買いに行ったまでのことである。そのチェーン店の中で、うちから最寄りの店がたまたま代官山であり、また定期券の経路上にもあって、電車賃もかからないということで、代官山が選ばれただけである。

 とは言え、日曜の朝から、わざわざ朝食を買うためだけに往復二十分近くも電車に乗らなければいけないというのは、けっこう大変なことである。しかし私は、喜んで代官山へ出かけた。それは、ついでに「あじさい列車」を眺めようという魂胆があったからだ。

 東急東横線代官山-渋谷間の右窓には、あじさいの見えるところが二箇所ある。一箇所は、この区間唯一の踏切を渡るときに見える。道沿いの高い崖上から、せり出すようにして咲く青いあじさいだ。もう一箇所は、JR線を跨ぐ手前である。電車が鉄橋に躍り出た瞬間、JR線沿いの道を注視していると、歩道の植え込みに赤紫のあじさいが見えてくる。色が強くて、けっこう存在感のあるあじさいだ。

 私は最近、毎朝の通勤でこの二箇所のあじさいが車窓に見えてくるのを、何より楽しみにしている。それは、私にとって最も身近な路線である東急東横線が「あじさい列車」になる瞬間だからである。

 それで昨日は、代官山へ行くついでに、いつも車窓にあるだけのあじさいを、近くでじっくり眺めてみようと思い立ったわけである。

 代官山駅に着いた私は、渋谷方へとぶらぶら歩き、まずJR線沿いのあじさいを目指した。途中に踏切のあじさいも見えるが、それは後に取っておく。

 JR線沿いの道にある赤紫のあじさいは、もしかしたら山手線の車窓にも見えるのかもしれないが、やはり橋上を往く東横線から見下ろすのが良い。そのあじさいに近付いてみると、車窓から見るよりずいぶん色が濃いように思われた。そんな花越しに、電車を捉えてみる。
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 折しもこの辺りは、東横線の地下化工事の真っ最中で、花越しを往く電車の風景には、工事用の車両や柵といった無粋なものが写りこんでしまう。およそ「あじさい列車」には似つかわしくないものだが、それでも私は、ここのあじさいが好きだし、その花越しにこうして「あじさい列車」を見ることができ、とても嬉しく感じた。

 さて、花越しの電車を何本か楽しんだところで、代官山駅の方へと少し戻り、踏切近くのあじさいを見に行った。

 踏切手前の崖からこぼれ落ちてきている花は、すぐ近くまで行ってみると車窓から見るよりずいぶんと高いところにあるように感じられた。そのため、花と電車を合わせて撮るのは難しいような気がしてきた。それでも、何とか「あじさい列車」を捉えてみた。
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 この崖の上には民家があって、そこへは私道が通じている。その私道に入って行けば、花の上から電車を見下ろすような眺めになるかもしれないが、住人でもないのに私道へ立ち入ることは、何となくためらわれた。それに、ここのあじさいは、やはり下から見上げるのが良い。

 それで私は、花の向こうの踏切を往く電車という眺めを、またしばし楽しんだ。こうして、いつもは車窓から見るだけの花に自分の足で近付き、じっくりと眺めてみると、その花に対する想いは、また違ったものになってくる気がした。私は、通勤途中にこのあじさいを眺めるという楽しみが、一層大きなものになったように感じられた。

 そしてまた、身近な路線で毎日のように眺められるという意味でも、ここの「あじさい列車」は、もしかしたら私にとって最も大切な「あじさい列車」なのかもしれないというふうにさえ思えてきた。

 そんな「あじさい列車」に夢中になっていたら、すっかり時間を取られてしまった。私は急いで、サンドイッチの店へと向かった。

東急東横線渋谷駅~代官山駅にて 2010.6.20



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by railwaylife | 2010-06-21 22:54 | 東急5000系列 | Comments(1)
Commented at 2010-06-21 23:12 x
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