高原野菜とカツの弁当

 寝台特急「北陸」で早朝に上野駅へ帰ってきた日曜日は、午後から夫婦二人で妻の友人のピアニストが開くコンサートを聴きに行く予定であった。

 コンサートは14時からであったが、会場の最寄り駅が五日市線の秋川と遠かったため、昼過ぎには家を出なければならなかった。

 それでも上野駅から一旦帰宅すると、夜行明けで寝不足の妻はしばらく仮眠を取っていた。

 その後、そろそろ支度にかからなければならない時間になったので、私は妻を起こしたが、旅の疲れもあってか、妻はなかなか起きられなかった。

 しばらくしてどうにか起き出した妻は、大急ぎで支度をしたが、家を出るのが予定していたより少し遅くなってしまった。それでなるべく早足で最寄り駅まで向かったが、乗るはずだった電車が目の前で出て行ってしまった。

 二人で途方に暮れてしまったが、とにかくすぐに乗り換え案内で到着時刻を再検索してみた。すると、各線の接続が悪く、当初予定していたよりも三十分くらい遅れることがわかった。仕方のないことではある。

 ただ、時間に余裕ができたので、せっかくだから昼食をとろうということになった。この日は早朝の上野駅で朝食をとっただけであったからだ。しかし、電車の接続の関係で、どこの乗り換え駅でもまとまった時間がとれそうになかった。最大でも立川駅での十数分ということで、ゆっくり食事をしている暇はなさそうだった。

 どうしようかと思っていると、妻が私に「立ち食いそばでも食べれば。私はいいけど」と言った。しかし、それは何だか申し訳ないような気がした。

 とにかく次の電車に乗って、目的地へ向かい始めた。ルートとしては、東急東横線で渋谷へ出た後、山手線で新宿、中央快速線で立川へと向かい、そこから青梅線と五日市線を乗り継ぐことになっていた。

 東横線と山手線に乗っている間も、私は昼食をどうしようかとずっと考えていたが、ある案を思い付いた。それを実行すれば、二人ともゆっくりと食事をとることができる。

 その案とは、新宿から立川まで、特急に乗ることである。ちょうど13時30分発の特急があるはずだ。新宿駅で何か食糧を買い込めば、特急の車内で移動中にゆっくりと食べることができる。立川からは、予定していた三十分遅れの電車に乗り継ぐこともできるし、一石二鳥である。もちろん特急料金はかかるが、さほど高くないはずである。

 さっそく妻に提案すると、賛成してくれた。そこで新宿駅に着いた私たちは、特急券を購入してから弁当屋へと向かった。

 折しもこの日は、弁当屋で駅弁大会が開かれており、特別に全国の駅弁が売られていた。それで、豊富な種類の中から好きな駅弁を選ぶことができた。それぞれが気に入った弁当を買い、9番線ホームの特急「かいじ」109号へと乗り込んだ。

 幸い自由席は空いていて、ゆったりと座ることができた。こうして特急列車に乗り込んでみると、すっかり旅気分である。旅から帰ってきたばかりなのに、気分だけでもまた旅立ちのさまを味わえるとは、嬉しい誤算である。

 席に落ち着いたところで、さっそく弁当を開ける。私が買ったのは、中央本線小淵沢駅の「高原野菜とカツの弁当」だ。この日の中央本線での行先は立川だが、気分的にはもっと先まで行きたいところであった。だから沿線の駅弁を買ってみた。
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 ちなみに妻が買ったのは「瀬戸の魚島出世寿司」であった。
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 駅弁を食べながら、新宿駅の発車を迎える。駅を出ると、普段の通勤経路の眺めが始まった。しかし、特急の車内から眺める景色はいつもとまた異なる。日常の風景が特別なものに見えてくるから、気分が良い。

 そして、平日は毎日乗り降りする荻窪駅に差し掛かる。荻窪駅を通勤で使うようになってから、いつかこの駅を特急列車の車内から見遣ってやりたいと思っていたが、その願いは意外と早く叶った。しかし、今回の行先は知れている。本当は甲州か信州にでも旅立つときであってほしかったものである。それで私は、駅弁に入っている高原野菜を噛み締め、はるか信州の高原を想った。

 荻窪から先は普段乗らない区間なので、それも楽しみではあった。三鷹駅の停車を経ると、線路はだいぶ高架化が進んでいて、新鮮な感じもした。

 程なく立川に到着し、わずか二十五分で特急列車の旅は終わった。ここから青梅線と五日市線を乗り継ぎ、秋川には予定通り三十分遅れで到着した。

 冷たい雨の中、駅から会場へ向かうと、ちょうどコンサートの後半から聴くことができた。しかし、私も寝不足であり、演奏が始まるとたちまちに強い睡魔に襲われた。そして、ピアノ三重奏の美しい音色が眠りをさらにいざない、私はまだ寝台特急に乗っているかのような、夢心地のひとときを過ごしていた。



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by railwaylife | 2010-03-10 21:45 | 駅弁 | Comments(0)
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