ホームライナーに乗る

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 金曜日の夜、583系を見に大船駅へ行くために、東京駅からホームライナーを利用してみた。乗車したのは、東京発21時30分の「湘南ライナー」13号である。

 通勤ラッシュ時と帰宅ラッシュ時に都心と郊外を結ぶホームライナーには、特急車両が充当されていることが多く、特急料金なしで特急車両に乗ることができる。だから、ホームライナーには以前から妙な憧れがあって、一度乗ってみたいと思っていた。しかし、都内在住の私には乗る機会などあるはずもなく、いつも眺めるだけであった。そんなこともあって、この機会についに乗ってみることにした。

 東海道本線の「湘南ライナー」13号の発車は、東京駅9番線からであった。21時過ぎにホームへ行くと、すでに「湘南ライナー」13号の客と見られる仕事帰りの人たちの姿があった。

 かつて次々と寝台特急を送り出していた夜の9・10番線ホームも、今は通勤電車を出し入れし、ホームライナーを送り出すばかりになってしまった。それでも、わずかに残った寝台特急「サンライズ出雲」「サンライズ瀬戸」に乗ろうとする旅行客の姿が早くもちらほらと見受けられ、どうにかかつての栄光の残影を見ることができた。

 さて、ホームライナーへ乗るのためにはライナー券を購入する必要がある。ホームライナーは定員制であり、ホームにあるライナー券の券売機には残席数が表示されている。購入しようとしたときには席にまだまだ余裕があり、私のような「帰宅客」でない者が一人紛れ込んでも問題なさそうであった。それにしても、500円というライナー券の値段は高いのだろうか、安いのだろうか。普通列車のグリーン券よりは安いが、毎日利用するとなるとけっこうつらいものがあるのではないかと思ったりもしてしまう。

 やがて「湘南ライナー」となる185系電車が、ゆっくりと9番線に入線してきた。私はその面構えをじっくり見てから乗車しようとホームの端にいて、のんびり写真を撮ったりしていたが、その間に「湘南ライナー」の乗車口にはけっこう長い行列ができていた。席は自由であり、早い者勝ちで埋まっていくので、私は少し焦ったが、幸い乗車して後方の車両まで行くと、窓際の席を問題なく確保できた。久しぶりに特急車両のシートに身を沈めることができ、私は満足していた。

 車内は窓際の席がほぼすべて埋まるくらいの乗車率で、のんびりした感じであった。ほとんどが一人客なので、静かでもある。ただ、缶ビールやおつまみを手に乗ってくる客も多くて、わりと自由な雰囲気だ。私は何も買わずに乗ってしまったので、少し後悔した。

 21時30分、東京駅を発車する。東海道本線の列車で東京駅を発つときは、いつでも独特の緊張感がある。それにしても、こうして東京駅から闇へ向かって漕ぎ出すのは、いつ以来のことであろうか。始まった闇の車窓に、私は当たり前のように、寝台特急の車窓を想い重ねていた。

 ホームを離れ、闇の下に幾筋ものレールが並び、それが街灯りで白く浮かび上がったとき、私は旅立ちのときの心の高鳴りを勝手に感じた。他の乗客にとっては何でもない日常の車窓に、私はこの上ない高揚感を得ていた。思い描くのは、あの九州行き寝台特急が旅立つさまである。この185系も、そのまま九州まで行ってしまえ!と思う。

 そんな気持ちの高ぶりから、見慣れた眺めも特別なものに思えてくる。有楽町・新橋・浜松町・田町の各駅の表情と、そこを通り抜ける通勤電車の姿は「東京から旅立つ」というさまを引き立たせるための風景なのだと感じる。

 やがて田町を過ぎると、田町車両センターの側線が窓いっぱいに広がる。その中に、出発を今や遅しと待ちわびる寝台特急「サンライズ出雲」「サンライズ瀬戸」の姿があった。すっかり自分が夜行列車にでも乗っている気になっていたが、本家はあちらである。闇に佇むその寝台特急の姿を、じっと見送る。

 列車は品川駅に停車する。ここからも乗車できることになっているが、私の乗った後方の車両に、乗客は増えなかった。引き続き、ゆったりとした気分で過ごせそうである。

 品川駅でずいぶんと長い時間停車し、すっかり間延びしてしまったが、再び走り出すと、私は闇の眺めにまた寝台特急の車窓を重ねていた。白く淡い街灯の光が、次々と飛び去っていく。まさに九州行き寝台特急と同じ眺めだなあと思う。

 やがて、黒々とした多摩川を高速で渡って行く。そして、川崎駅の光もあっという間に車窓の後ろに追いやり、おまけに横浜駅まで豪快に通過して行く。横浜駅を通過するなんて、なかなか経験できないことである。

 横浜駅を出て、住宅街の暗い車窓を見るうちに、少し心細くなってくる。でもそんな感覚が、寝台特急の旅愁のようだなと思う。

 そのうちに、清水谷戸トンネルへと吸い込まれる。武蔵と相模の国境でもあるここは、西へ旅立つときの重要なポイントだ。このままずっとずっと西へ行ってしまいたい気分になるが、残念ながら降車駅は近付いてきてしまった。

 戸塚駅を過ぎた列車は、大きくカーブを描きながら、大船駅へと吸い込まれていく。横浜駅を通過したせいか、ここまでずいぶん早く感じられた。寝台特急の車窓を想い重ねていた旅も、ここで終わりである。この夢の続きは「サンライズ」で見るしかないなと思う。

 22時08分、列車は品川駅以来の停車駅となる大船駅に着く。東京駅で乗車のときは限られたドアしか開かなかったので、ここではどうなのだろうと急に不安になったが、ちゃんと全部の車両のドアが開いて、無事に降りることができた。しかし、この駅から強行に「湘南ライナー」へ乗り込む客が意外に多く、それには驚いた。私は改札を一旦出てからすぐに入り直し、583系がやって来る7番線へと向かった。


185系「湘南新宿ライナー」13号 東海道本線東京駅にて 2010.2.26



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by railwaylife | 2010-02-28 19:45 | 185系 | Comments(0)
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