最後の勇姿

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 いつも夕方18時03分になると外の空を見上げる癖があった。今日はこんな空の下、寝台特急「富士」「はやぶさ」は旅立って行くんだなあと思うためである。

 その旅立ちの最終日の昨日、私は職場のデスクで18時03分を迎えた。虚しく黒い空を見つめ、東京駅を想うしかなかった。

 明けて今日、最後の上り「富士」「はやぶさ」が東京に上ってくる朝である。列車は九州内のダイヤ乱れの影響で、一時間以上遅れているとのことであった。私は最後の勇姿をどこで見送ろうかとずいぶん考えた。天気は、雨が止みそうで止まない。止むのなら駅間の線路際が良い。止まなかったら、どこかの駅で見送るしかない。空模様をずいぶん気にしながら、家を出た。

 結局、雨は降り続いていたが、思い切って線路際で見送ることにした。いつだったか「富士」「はやぶさ」を見送ったことのある大森駅近くの跨線橋である。そこへ行ってみると、すでに多くの人がカメラを手に待ち構えていたが、何とか脇の方に入り込むことができた。

 列車を待つうちに雨は止んだ。そして11時20分、大森駅の向こうに機関車の光が見えた。最後だという緊張感が高まる中、グングンと列車は近付いてくる。カメラを構えて夢中でシャッターを切った。ファインダーの中には、いつもながらの「富士」「はやぶさ」の姿があった。

 振り返って、去り行く列車を見送る。雨上がりの空の下、客車の青色はいつになく深く沈んで見えた。遠ざかる青き列車をじっと見送る。見えなくなるまで見つめる。東海道本線でブルートレインを見られるのもこれで最後だと思うが、まるで実感がなかった。また、列車を見送ったのはあっという間のことで、想いを込めることもできなかった。でも、帰宅の途に就くうちに寂しさが込み上げてきた。

 一昨年の11月に寝台特急「富士」「はやぶさ」の廃止報道が出て以来、今日まで瞬く間に過ぎた。でも、その間に「これが最後」との想いで結局三回もこの列車に乗ることができたのは良かった。幼い頃の憧れから、最後の乗車まで、九州へ向かう寝台特急への想いは、私の心に深く深く刻まれた。その姿を、その旅路を、その思い出を、私は決して忘れるものではない。


寝台特急「富士」「はやぶさ」 東海道本線大井町駅~大森駅にて
2009.3.14


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by railwaylife | 2009-03-14 22:27 | 寝台特急 | Comments(0)
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