東北の旅2011夏 その3
>>東北の旅2011夏 その2
米沢駅から「つばさ」に乗り、山形駅に到着した私たちは、いよいよこの旅の目的である冷しラーメンを食べに行くことになった。ただ、ラーメンを食べる時間としては中途半端であった。それで、駅ビルの中をしばらく冷やかして時間を潰すことにした。16時台とは言えまだ暑い中を歩いて行くのも嫌だという気持ちもあった。そんなわけで、お土産の予習をしたりしてから、冷しラーメンの店へと向かった。 目指す店は駅から1.1kmということで、歩いてもそれほどないような気がして歩き始めたが、暑い街中を歩くのは予想以上にきつかった。それで、途中でカフェに寄って喉を潤したり、紅の蔵という観光施設を覗いたり、古めかしい建物を眺めたりしながら休み休み店へと向かった。 ようやく店にたどり着くと、店内は大盛況で、三連休中ともあって家族連れも多かった。どうにか席を確保しすぐにお目当ての冷しラーメンを注文したが、なかなか出てこない。そのうち、後から頼んだとなりのテーブルの客に先にラーメンが出てきたので、しびれを切らして店員に催促すると、冷しラーメンはすぐに現れた。どうやら注文を忘れられていたらしい。 冷たいラーメンと言えば、ふつうは冷し中華のスタイルであるが、この冷しラーメンは温かいラーメンのスタイルのままで冷たいというものである。 待たされた分だけ期待も高まったが、食べてみると言うほど「冷し」ではない気がした。スープもぬるい感じがした。後でわかったが、本当は氷が入るらしい。妻の方には入っていたようだが、私の分には入っていなかった。それが残念ではあったが、変わったラーメンだけに楽しむことはできた。キュウリなどの具がシャキシャキとした歯応えがあったのも良かった。ここへ来るきっかけとなった番組で言っていたように「なまら、うめぇ」というところまではいかなかったが、食べてみたいと思っていたものを食べることができ満足であった。 店を出ると大変な行列ができていた。いいときに来たようであった。 駅まで戻るのにまた歩くのも嫌なので、近くの停留所から100円バスに乗り込んだ。傾いていた日がいよいよ眩しくなって、日没も迫ってきた。 山形駅に戻り、お土産をささっと買い、新幹線のホームに入った。帰途も山形新幹線である。 ちょうど日没時刻となり、空が明るさを失おうとしていた。暑かった一日がようやく終わるなあという気がした。 すっかり日の暮れた頃、帰りの「つばさ」東京行きが山形駅に入って来た。新庄始発であるが、私たちは指定券を持っているので座れない心配はなかった。 山形駅を発車してすぐ、駅ビルで買い込んだ地酒と牛タンを開けた。 暑い中をなんだかんだと歩き回り、二人とも疲れていたので、さっさと飲んで眠ってしまおうと考えていた。 微炭酸のお酒に夢中になり始めた頃、車窓の夕暮れはその色をほとんど失い、黒い山の稜線だけが見えていた。 そんな車窓も肴にしつつ、酒屋でもらった小さなカップで二人してぐいぐいと呑み、あっという間にお酒は減っていった。きっと、二人とも喉が渇いていたのだろう。 車窓はすっかり闇となり、米沢駅に着く。今回訪れたことで、米沢という街が一段と親しみのある場所になったことは本当に嬉しかったが、その街もすっかりと日が暮れ、こうして帰途の車窓に眺めなければならないことは本当に寂しいことであった。 米沢駅を発った列車は闇夜の板谷峠に挑む。こんなに日が暮れてから板谷峠を通り過ぎるのは初めてかな、なんて思うと心細い気もしたが、そういえば昔は寝台特急「あけぼの」が深夜にここを通過していたな、なんていうことを思い出した。 さらにまた思い出したが、私は一回だけ急行「津軽」で真夜中の板谷峠を越えていた。もちろん寝ていて何も覚えていないが、それに思い至ると何だか急に心強く感じられた。 そんなとき、黒の車窓に板谷の駅名標が白くボッと浮かんだ。短いはずのホームには駅名標が二つあり、一つはJR式の緑のラインであったが、もう一つは国鉄式のデザインに見えた。その国鉄式の駅名標が見えたとき、無性にこの駅へ降り立ってみたくなってしまったものである。 いつしか列車は下りにかかった。やがて、私たちの座っている左窓側には福島の市街が見えるはずだ。夜のことゆえ、その灯火がきらきらと目にしみるのではないかと思って妻を促したが、思ったほどではなかった。それよりも、十六夜の月がやけに黄色を濃くして、街の灯火の上に浮いていたのが印象的であった。 福島駅で「Maxやまびこ」と併結し、東北新幹線の太い流れに乗る。この辺りへ来るまでには絶対に眠っていると思っていたのに、二人とも目が冴えて、ちっとも眠れなかった。そのうちに、車窓の月は高くなり、いつもの白んだ黄色になっていた。 さて、せっかくの楽しい旅の思い出であるが、嫌なこともちょっと書かなければならない。 最近、指定席の車両に乗ると、指定券も持たずに勝手に空いている席に座る客が目に付く。このときも、指定券を持っていないと見られる年配男性の二人連れが、空いている指定席を巧みに四度も移動しながら、郡山-宇都宮間を除く山形-上野間で座り通していた。そして、最後には缶ビールまで酌み交わす始末であった。 別に、座席にたくさんの空きがあったのなら構わない。しかし、この日のこの列車は、指定席が満席であると車内放送では告げられていたし、自由席も混んでいて座れない人が大勢いた。 そのような状況の中で、たまたま席が空いていたからと言って勝手に指定もされていない席に座ることが許されるのだろうか。 指定券を持っていないのなら、乗車駅で自由席車両の乗車口に並ぶべきである。当然、こういう三連休みたいなときは乗客も多いから列も長くなるが、どうしても座りたいというのなら、早めに駅のホームへ行って並ぶべきである。そうやって努力をした人は座れる。 でも、そういう努力もせず、この年配男性の二人は空席なのをいいことにのうのうと指定席に座っている。こういう客は、見るに耐えない。特に、自分より年配の客がそういうことをしているというのが嘆かわしい。私は、自分がいくつになったとしても、決して同じことはしたくないと思った。 こんなふうにオジサンの行動をつぶさに観察していたのも、眠ろうと思っていたのにちっとも眠れなかったからで、結局私たちは、終着の東京駅まで少しも眠らずに過ごしてしまった。 日が暮れてからの帰途というのは虚しいもので、できれば眠っている間に過ぎ去ってほしかった。しかし、私たちは大宮を過ぎてから荒川の黒々とした河川敷をしっかりと眺め、東京へ帰着する瞬間をこれでもかと見せ付けられてしまったものである。できれば、奥羽本線を走っている間に眠り始め、福島駅の併結も知らずに眠り続け、目が覚めたら秋葉原駅が車窓に見えた、なんていうのが理想だったが、帰途の時間をすべて記憶に残してしまった。 東京駅に降り立ち、最終列車だけが残る発車案内を見ながらホームを歩いた。生ぬるい風がちょっと心地よく感じられたりもして、旅が終わったという虚しさはさほどなかったが、地下鉄を乗り継いで渋谷駅まで戻って来ると、何だか一気に日常へ引き戻された気がして、げんなりしてしまったものである。こうして、私たちのJR東日本パスでの旅は終わった。 このJR東日本パスには、東北を元気にしようという意図もあったことと思う。しかし、日帰りだった私たちが現地で使ったお金はごく限られていて、どれだけ東北に貢献できたかはわからない。 とは言え、私がこのJR東日本パスで東北への旅を選択したのは、東北がいま大変だから行ってあげよう、というよりも、幼い頃からずっと憧れ、何度も、何度も旅してきた東北をまた旅したい、という、ただそれだけの想いであった。でも、その想いこそが私は、東北のためになるのだと信じている。もちろん私が旅したところで、できることは微々たるものではある。だが、今年とか来年とかそんな短い間ではなく、永く永く、私は東北を想い、旅し続けていきたいと思っている。
by railwaylife
| 2011-08-21 22:23
| 旅
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