先日の「さみだれ世田谷線」で東急世田谷線に乗車したとき、各駅に貼られていたあるポスターが目に付いた。
それは、5月11日から始まる「全国列車妨害防止旬間」のポスターであった。ポスターに書かれたイラストが古典的な漫画ふうのタッチだったので、私は思わず見入ってしまった。
いや、私がこのポスターに惹かれたのは、この電車が描かれていたからだろう。
これを見た私は「東急の7200系だ!」と思った。幼い頃に、地元の東急東横線で走っていた車両である。だから、とても懐かしく感じられた。この車両が引退して、もうずいぶん経ったはずである。
だが、なんでこんな昔の車両を今さらポスターのイラストに採用したのか、不思議な気もした。
いや、この車両は正確に言うと、昔の車両ではない。まだ現役の車両である。本家の東急でも、制御装置が載せかえられて7600系という名でいまだに活躍しているし、上田電鉄や豊橋鉄道など、地方へ譲渡されて活躍もしている。
ただ、それらの現役の車両は、いずれも前面が派手派手しく塗られていたり、帯が入ったりしている。東急の7600系は俗に「歌舞伎」などと呼ばれるように、隈取のような赤のラインが施された上に貫通扉がまっ黒く塗られている。上田電鉄の車両も、かつての「丸窓電車」の塗装を模して、車体がクリーム色と紺色に塗り分けられているし、豊橋鉄道の車両も前面が赤色や黄色や水色に塗られている。
イラストの車両は、貫通扉こそ黒っぽく見えるものの、それ以外には帯も塗装もない。すっぴんみたいな顔である。その顔はやはり、私が幼い頃に見た7200系に他ならないと思う。
そう確信した私は、自分にとっての思い出の車両がポスターに使われていることが嬉しくなった。
いやいや、喜んでいる場合ではない。見ればこの7200系は、置き石に向かって疾走しているではないか。このままでは脱線してしまう。思い出の7200系が置き石に遭って脱線するところなんて、絶対に見たくない。
それを思うと、7200系がこのポスターに採用されたことについては、何だか複雑な気持ちであった。